ジョーカーが「ピエロ」な理由
突然ですが、革靴で全力疾走したことありますか?それもソールが革張りで硬いタイプのもので。今作では冒頭から主役のアーサーが革靴でガタガタと大きな足音をたてながら全力疾走します。主演のホアキン・フェニックスに何かが宿ってるようで、走る姿はどんな台詞よりも雄弁だ。
傑作だ、いや暴力を助長するからダメだ、と本国米国でも賛否両論渦巻く本作。演技、音楽、衣装は素晴らしいですよ。でも監督が別の人だったら、もっと良い傑作になってた気がしなくもない。とは言え、これだけ話題になるのは作品のテーマがタイムリーで観る者を揺さぶるから。
消費税増税に伴い、某経済新聞はこれからはニンジンの皮もおいしく食べきろう!という記事を書き、一部ネットでは叩かれてました。いつの戦時中だよ、と。一方で、企業の内部留保は過去最高の500兆円を更新。要するに、一部大企業はお金を溜め込み、庶民は増税で更に苦しむ。こうして無駄を削減しろ、災害が来ても病気になっても自己責任だ、と言う庶民切り捨てマインドが出来上がります。緊縮政策が作り出した経済格差です。今作を観た人が揺さぶられ語らずにはいられないのは、今作がフィクションの体をなした現実を鋭く抉り出す鏡だから。
正にピカソが言う「芸術という嘘は真実を映し出す鏡だ」です。そもそも欧州では昔からピエロや道化は貴族が宮殿に住ませ、政治を風刺してもらう口出し役を担ってきました。そういう意味ではアメコミ映画の枠を超えて、歴史的に見ると当たり前なんです、ピエロが社会を風刺するのは。
日本だけでなくて世界中の先進国で今は経済格差・反緊縮・アンチグローバル化が社会問題となってます。特にヨーロッパの映画祭で評価されている近年の作品を観ると一目瞭然。『わたしは、ダニエル・ブレイク』、『万引き家族』、『ROMA』、『パラサイト半地下の家族』などなど。
近年のこれらの作品で描かれているのは、ニンジンの皮を食べたり革靴でも全力疾走しないと生きていけない人達なのかもしれません。(詳しくはブレイディみかこさんの記事が参考になります)
ちなみに、この映画では足音がはっきり聞こえるくらい丁寧に走るシーンを撮り、徐々にアーサーがジョーカーに変貌する過程を描いています。で、最後のシーンで足音は聞こえるのでしょうか?是非劇場でお確かめください。
『ゼロ・グラビティ』のキュアロン監督最新作。映画『ROMA/ローマ』
撮影も配信も最先端な映画『ROMA/ローマ』。観終わった後に、写真を撮りにこう!と創作意欲を掻き立てられました。あー、あの空が本当に美しい。キュアロンが今回もまたやってのけてくれました。
ローマの思い出
映画『ROMA/ローマ』の舞台はキュアロン監督が生まれ育った1970年代のメキシコシティ内のローマという地区。大家族の中の息子として育った彼は、住み込みのお手伝いさん達に囲まれていました。今作はそのお手伝いさんの女性を主役にした「思い出」と家族の「再生」を描いています。
風景写真のような映像
映画の冒頭からじっくりと見せる床の掃除、キュアロン十八番の長回しで映される家の中、ドリーで撮る街中の移動などなど。とにかく撮影が今まで観たことの無い世界を写してくれているのが嬉しい。市内でも、大自然の中でも引きの画が大半を占めている表現がまた新鮮。ここまで細かい部分までフォーカスが合っているのは、さながら巨大な風景写真のよう。それでも『ROMA/ローマ』が彼個人の単なる「思い出」話に止まらず、皆が共感できる「映画」になったのは、風景写真に柔らかい感触を残したからかもしれない。
『ROMA/ローマ』は撮影も配信も最先端!
今回はキュアロン監督自身が撮影監督も務めたのも重要なポイントでしょう。Arri Alexa 65mmという大きなセンサーを持ったデジタルカメラを使って、白黒で撮る。フィルムで白黒で撮ると途端に懐古趣味になってしまうし、デジタルでカラーで撮ってしまうと最先端の表現になりすぎてしまう、と考えたのでしょうか。しかも配給は昔ながらの映画配給会社ではなく、Netflixでの全世界同時公開。作って終わりではなくて、配信のあり方からも今後の映画のあり方について一石を投じて、大きな議論を巻き起こしたのも記憶に新しいですね。やること粋すぎますよ、キュアロン御大!
再生を描く監督、キュアロン
『ROMA/ローマ』では、
タルコフスキーのような水や炎の象徴的な映し方もあれば、フェリーニのような音楽隊や動物が出てくる庶民的な映し方もあるのに、市街戦?のような緊迫感を出せるのも流石キュアロン!という感じ。
そういえば、『トゥモロー・ワールド』でのあの長回しにしろ、『ゼロ・グラビティ』での宇宙での浮遊感にしろ、キュアロンは昔から新しい「映画」作りをしてきた人だっけ。前2作でも、今作でもキュアロンって「再生」を描きたい人なんだなと思った。
あ、そういえばハリポタ3もある意味時間を遡って自信をつけるハリーにとっての「再生」の話なのかもしれないなぁ。(今作で水や炎の象徴的なショットがお気にりになった方は、ナウシカの元ネタの1つでもある、映画『ストーカー』もオススメ。ロシアの巨匠、タルコフスキーによる詩的なSF映画です。)michischili.hatenablog.com
(または、音楽隊や、街中の動物がわちゃわちゃした感じが好きな方は映画『8 1/2』もオススメ。こちらはイタリアの巨匠、フェリーニによる「映画内映画」)
とりあえず、『ROMA/ローマ』は白黒なのに絶妙な濃淡で描かれているのでとても豊か。カラーじゃないからって敬遠せずに是非観てね!あーそれにしても海と、家から見えるあの空が忘れられない。写真撮りに行こっと。
『ROMA/ローマ』ティーザー予告編 - Netflix [HD]
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言葉は要らない!?音楽と映像で饒舌に語る『ベイビー・ドライバー』
台詞、ナレーション、
まさしく映画というメディアの特徴と言えるだろう。エドガー・ライトはそれを今作でやってのけた。
この、「言葉や文字を使った説明」に頼らない=
銀行強盗の逃し屋をやってる凄腕ベイビーフェイス・
そしてその饒舌な映像の連なりをドキドキしながら観てる我々は、い
※この映画の前に、監督エドガー・ライトが撮ったPV。
この時点で既に今作で使われてるアイディアの片鱗が見えるので、興味がある方は是非こちらもどうぞ!
Mint Royale - Blue Song
もし、この映画でも物足りと思った渋い物好きの、あなた。アメ車がかっこいいこちらの映画もオススメです!michischili.hatenablog.com本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!
親戚のおじさん?演技があまりにもリアルな『ウィンストン・チャーチル』
魂が宿る物作り
物作りの歴史において、偉大な作品にはどこか「魂が宿った」
ぽっちゃりピースおじさん
さて、今作は美術館の話でも、物作りの話でもない。
魂が宿った?
しかし、この映画の魅力は何よりもゲイリー・
このなりきり感は単なる名演技というのを超え、上述したように「
緊迫する国際戦時情勢に慌てふためく政治家の中において、
渋いおじさんの映画
チャーチルの政策に最後まで対抗する嫌な役柄を演じたスティーヴ
今作と同じくらい作り込みがすごく、同じ俳優(スティーヴ
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アメリカ映画なのにアイリッシュ!?『スリービルボード』の耽美な世界
監督と脚本を手掛けたマーティン・マクドナーはアイルランド系イギリス人。アメリカ映画なのに随所にアイリッシュ要素と、耽美な要素が見られました。
夏の名残のバラと耽美なオープニング
映画冒頭の約3分、アメリカ合衆国ミズーリ州エビングの風景を写しながら流れる『夏の名残のばら』はアイルランドの民謡。後にクラシック曲や、ポップ・ミュージックなど様々な形式に引用されてますが、この映画で使われたのはオペラ用に編曲されたもの。時代や主題が違えど、風景とこのオペラ版の曲の組み合わせによって、この3分間はヴィスコンティのような耽美なトーンで進んでいきました。
主人公ミルドレッドが3つの看板を設置した後、彼女の自宅に地元の教会の神父が尋ねてきます。曰く、殺害された娘さんの件については皆あなたの味方だが、あの看板はやりすぎだ、と。すかさずミルドレッドはカトリック教会を揺るがすスキャンダル、神父による子供の性的虐待について言及。あなたが仮に加担していなかったとしても同じ教会の一員であるだけで、私にとっては共犯者よというニュアンスの事を吐き捨てます。
(ちなみにこの事件は『スポットライト 世紀のスクープ』という2016年アカデミー賞作品賞を授賞した映画で描かれています。ボストンのカトリック教会における虐待について徹底的に調べたジャーナリスト達の話ですが、ボストンという街に最も多いのがアイルランド系の移民なのです。更にアイルランド系の多くはカトリック教徒でもあります。
また映画の中盤でとある夫婦が、
「それはシェイクスピアの引用か?」「いえ、オスカー・ワイルドよ」
というやりとりをしてました。そしてオスカー・ワイルドもアイルランドを代表する作家・詩人です。耽美主義を代表する作家、としても知られていますね。
さて、この映画はアイルランド系イギリス人というある種の部外者だからこそ描けた現代アメリカの暗部、とも捉えられます。ただ、個人的には監督が目指したかったテイストがやや中途半端に見えてしまいました。冒頭の3分は前述の通り、耽美な雰囲気をまとった至福の映画時間が流れました。このテイストのまま進めば大傑作になったかもしれないのに、と、思いつつ登場人物が出てからはヘッドショットを多用した、ややバタバタしたカメラワークに。役者の演技合戦が見られたのは良かったものの、「映画」ならではの撮影と編集のリズムの耽美な要素はこれ以降はあまり観られませんでした。
とは言え、タイムリーな話題を扱い、さすが劇作家出身と思わせる脚本の巧さは絶妙でした。監督の次回作も楽しみですね。
ちなみに同年に公開され、同じくアメリカの田舎を舞台し、殺人事件と人種の問題を扱った物語に、『ウィンド・リバー』という傑作もあります。
興味がある方は是非見比べてみてください!michischili.hatenablog.com
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戦うオヤジとアメ車が魅力。激渋映画『グラン・トリノ』
車を買うなら72年のグラン・トリノが良い、と思ってしまう激渋でカッコいい映画。テーマは「父性と赦し」でしょうか。
色彩より陰影が印象的な画作りや、時折手持ちカメラのような撮影が入る感じ、他にもオールドスクールなアメリカらしい質実剛健気質が満載。
戦争で心に深い傷を負い、2人息子とキチンと接する事ができなかった頑固な偏屈ジジイ、ウォルト。実は隣人のモン族達と過ごす過程で、彼自身の過去を赦す事で生きる喜びを見つけた、そう解釈もできる。
昨今の欧米社会では、左派的なポリティカル・コレクトネスが強調され、ハリウッドでもイーストウッドは右寄りな古い人と見られる事もある。でもこの作品はそんな思想の対立を超えるテーマがある。人は1人では生きていけない、とつくづく思った。
『カメラを止めるな!』の監督・上田慎一郎は日本映画を救うか?
あー悔しい。本当に悔しいわ。良い映画を観ると、たまに悔しいと思う時がありますが今回もそのパターンでした。 曲がりなりにも物作りに少し携わっている自分ですが、この作品に並ぶレベルの物を作れてない。悔しい。
過去、自分が携わった自主制作の映画に出演していた役者さんが今作にも少し出演していました。だからこの作品がそんなに遠い存在に思えず、悔しいというのもあります。
でもそれ以上に、とにかく映画の出来が良い。手放しに100点満点つくレベルなのに、悔しいからつけたくないという捻れた感情。
物作りの裏方を讃える映画は幾つかありますが、こんなにも人を恐がらせられて、
人を笑わせられて、家族の愛も描いてる映画はなかなか無い。ましてやここまで映画愛に満ちた作品もそうそう無い。願わくば、今作の成功を機に日本映画がより盛り上がるのを楽しみにしてます。監督・上田慎一郎は日本映画にとっての救世主となるか!?
あーとりあえず悔しい。 ポンっ!
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星野源も憧れる才能、ドナルド・グローヴァーによるドラマ『アトランタ』
突然ですが、ドナルド・グローヴァーをご存知ですか?
今ポップカルチャーの中で最も勢いと人気のあるアメリカ人クリエイターのドナルド・グローヴァー。彼が主演・制作(一部では監督や脚本も)を手がけている大人気かつ超重要作のコメディ・ドラマ『アトランタ』が遂にNetflixで配信されたのでドラマの感想も含めてご紹介します!
ミュージシャン、チャイルディッシュ・ガンビーノとして
恐らく日本では彼の別名、チャイルディッシュ・ガンビーノの方が有名でしょう。
僕も彼のアルバムAwaken, My Love!というアルバムの方で先に知りました。
今夏に公開されたシングル曲「This is America」のMVが世界中で話題になりましたね。ここ日本でも様々なミュージシャン達が話題に上げていました。
この曲は過激なメッセージとパフォーマンス、そしてポップなサビと突如転調してダークな雰囲気になる独特な楽曲が印象的ですね。
実は彼、ドラマもイケてるんです。
俳優、ドナルド・グローヴァーとして
チャイルディッシュ・ガンビーノは彼のミュージシャンとして活動する時の名義で、俳優・コメディ業をする時にはドナルド・グローヴァーとして通しています。最近だと『ハン・ソロ/スターウォーズ・ストーリー』にも出ていましたね。
この映画はコケてしまいましたが、彼の演技は良かったという感想。ミュージシャン・俳優・コメディもこなしている、という点では日本だと星野源が近いでしょうか。と思ったら星野源もやっぱりドナルド・グローヴァーのこと、追っかけてるみたい。ちなみに星野さん、それだけ最先端を追っかけてるなら早くapple musicかspotifyに配信してくださいな。
星野源がラジオで語る‼︎源さんがチャイルディッシュ・ガンビーノの新譜を大絶賛‼︎
ドラマ、『アトランタ』
さて、そんなドナルド・グローヴァーが手がけるコメディ・ドラマがやっとNetflixで配信されました。前回Huluで配信されたときは本当に2週間くらいの限定だったので観れた人もかなり少なかったようです。僕をはじめ、洋画ファンがnetflixにリクエストをし続けたのが届いたのでしょう、シーズン1だけですがとりあえず観れます!舞台はアメリカ南部、ジョージア州アトランタ。実はこのアトランタ、最近のヒップホップの一大トレンド、トラップというスタイルの発信地でもあり、MigosやFutureといった新たなスターも多く誕生しています。
ヒップホップやトラップのイメージが先行すると、いかついイメージが強いですがドラマ『アトランタ』はシュールでポップで笑えます。
ドナルド・グローヴァー演じるドラマの主人公、アーンはプリンストン大を休学して地元でフラフラしているという設定です。奥さんも子供もいるのに、定職がなく家賃も払えない為ホームレス状態。そんなときに今話題のラッパー、ペーパーボーイとして活躍する従兄弟の話を耳にし彼は思い立ちます。よし、俺をマネージャーとして雇ってもらう、と。ラッパーの従兄弟は出てきますが、ゴリゴリの音楽業界の闇を暴く、というドラマではなく、うまい具合の緩さがやみつきになるドラマです。
ツッコミ役で、みんなのリーダー的な太っちょラッパーの従兄弟、アルフレッド。ラッパーの時はペーパーボーイという名前。これもまた笑える。これまた人気爆発間違いなし、アメリカ版オダギリジョーとでもいいましょうか、シュールでお洒落で、何を考えてるかわからないダリウスというキャラクターがメインの3人。
左)アーン 右)ダリウス
ダリウスのスタイル、結構好きなので他にも貼っときます。笑
左)ダリウス 右)ペーパーボーイ
主人公が割と冷めた感じで周りと接していて、シュールな雰囲気もあってそれがまた笑える。アメリカ版ズッコケ3人組かと思いきや、村上春樹っぽさもあるドラマなのが魅力。
期待の若手日系監督、ヒロ・ムライ
チャイルディッシュ・ガンビーノ名義のMVでもタッグを組む日系の監督、ヒロ・ムライによる撮影も印象的です。時折差し込まれる街や風景の空撮や、ブルー系の色合いを強調する撮影が日常の中に少し幻想的な雰囲気が出るのですが、ヒロ・ムライは村上春樹が好きなようですね。とりあえず1話完結のものが多く、1話も30分弱と他の海外ドラマよりはとっつきやすいです。新旧のブラック・ミュージックの名曲がふんだんに使われるのも音楽好きにはたまらないですね。
チャイルディッシュ・ガンビーノでは上半身裸でやや過激なパフォーマンスが印象的ですが、ドナルド・グローヴァーとしては一歩引いた品のある雰囲気も出せます。テーマ、笑い、音楽、全てのバランス感覚の良さがずば抜けているクリエイター、ドナルド・グローヴァーによるドラマ、『アトランタ』。是非、ご覧ください!
このドラマに限らず、今ヒップホップがジャンルを超えて様々な分野で注目されています。あのApple史上最も高額な買収となったヘッドホンブランドを作った2人がヒップホップ界出身ということを描いたNetflixのドキュメンタリーがありますので是非こちらも読んでみてください。
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サラリーマン必見!?『ゲーム・オブ・スローンズ』が描く理想のリーダー像
先週のエミー賞授賞式で再び存在感を示した海外ドラマの金字塔、『ゲーム・オブ・スローンズ』。自分が最も語りたかった内容を紹介させて頂きます。一言で言うとリーダーシップ、副題をつけるならば「理不尽な世の中で、お前はどう戦うのか」と言うところでしょうか。 裏テーマは、「押井守ならこのドラマをどう見るか」です。
3回にわたってこの壮大なドラマについて紹介してます。是非第1回から読んで頂けると嬉しいです。
・その1『ゲーム・オブ・スローンズ』入門!登場人物3人の意外な共通点とは!? - 【ブログ】マーケターが追うポップ・カルチャー最前線
・その2『ゲーム・オブ・スローンズ』の圧倒的世界観!音楽・衣装・言語の作り込みが凄い - 【ブログ】マーケターが追うポップ・カルチャー最前線
・その3サラリーマン必見!?『ゲーム・オブ・スローンズ』が描く理想のリーダー像 - 【ブログ】マーケターが追うポップ・カルチャー最前線
- 『ゲーム・オブ・スローンズ』にみるリーダーシップ
- 現場派の誠実リーダー/ジョン・スノウ
- 強烈なカリスマ性で人々を率いるリーダー/ディナーリス
- 不遇の秀才、リーダーを支える参謀タイプ/ティリオン
- 仕事をしている社会人こそ共感できる
- 推しキャラ、ブロン
『ゲーム・オブ・スローンズ』にみるリーダーシップ
『ゲーム・オブ・スローンズ』は群像劇と言う、登場人物がとても多く、主人公がわかりにくいスタイルと言うのが特徴です。 様々な身分、民族、性別、職種のキャラクターの背景を描き、彼ら彼女らが時にはぶつかり、時には結ばれ、時には裏切ったりしていく日本の昼ドラもびっくり、ドロドロで過激な描写が多いです。しかもそれが王国の存亡、ドラゴン、蘇る白い死者といったファンタジー要素も加わった壮大なスケールで語られています。これだけの乱世の中、登場人物達はそれぞれの理想や、欲望を元に生き残る為の熾烈な争いに身を投じます。当然、どの組織に属して誰に従うかという現代で言えばマネジメントのヒントになるテーマが繰り返し繰り返し登場します。
そこで出るのが、今回の副題「理不尽な世の中で、お前はどう戦うのか」です。ひとまずは様々なタイプのリーダーをご紹介しましょう。
現場派の誠実リーダー/ジョン・スノウ
例えば、ジョン・スノウ。
ジョン・スノウやスターク家の人は、総じて誠実な人柄で人望が厚いタイプとして描かれます。自身も戦線に立ち、味方を守る為に体を張るタイプなので、現場からの信頼は絶大。一方で政治的な駆け引きは苦手です。ワル知恵が働くタイプの人にすぐ利用されたり騙されるタイプです。女性関係でも彼の不器用さが描かれています。世渡りは正直いって下手ですが、名誉や仁義というものを重んじる彼は軍人達にとっては頼れる存在です。
強烈なカリスマ性で人々を率いるリーダー/ディナーリス
ディナーリスの物語は王座を奪還しようとする兄に政略結婚の為、騎馬民族に嫁がされるという所から始まります。しかし、彼女はただの政治の駒として利用される事に疑問を持ち、自ら運命の道を切り開き始めます。政治・軍事と言った男が力で支配する世界に、小柄な若い女性が立ち向かいます。窮地に立った時でも怯まない、絶大な自信からくる大胆な行動が周りの人を惹きつけ、彼女に従いたい者が後を絶たないタイプのリーダー。「私が女王になって民を救う」という理想が行動原理となっています。
不遇の秀才、リーダーを支える参謀タイプ/ティリオン
最も金持ちな家系に生まれながらも、父からも、姉からも忌み嫌われる不遇の小人ティリオンの場合はどうでしょう。
知性派のキャラクター、ティリオンは参謀的なポジションとしてはずば抜けた能力を発揮します。ただし、小人である事や遊びずきな事がマイナスに作用してしまうこともしばしば。セルフ・プロデュースは意外と下手な為、なかなか本領を発揮できません。そういった応援したくなる部分も視聴者からの人気につながっているようですね。ちなみに彼は「世の中が良くなる為には?」といった真っ当な事が行動原理になっています。
仕事をしている社会人こそ共感できる
『ゲーム・オブ・スローンズ』には嫌な人もたくさんいます。俺が王だ!俺は○○家の者だ!としきりに言う奴がいたり、ただひたすら個人プレーで自己保身に走る人、他人の足を引っ張ることしか考えない人等。 誰に仕えるのかだけでも生死に関わってしまう世界、魑魅魍魎、阿鼻叫喚とはまさに『ゲーム・オブ・スローンズ』のことだったのか、と思いますね。「理不尽な世の中で、お前はどう戦うのか」というのは登場人物全員に繰り返し問われます。『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界は極端ですが、仕事を始めると1度や2度は考える事でもあるよなーと思います。
推しキャラ、ブロン
以上を踏まえての個人的な推しキャラは、ブロンという地味なおっさん。
左)ブロン 右)ティリオン
いや、他にもカッコイイおっさんはいっぱいいます。でも、今回のリーダーシップ編、または「理不尽な世の中で、お前はどう戦うのか」という切り口で見るとブロンが最も世渡り上手なキャラクターである、という事がわかると思います。王族や貴族がゴロゴロ登場する世界で、ブロンは傭兵として登場。ティリオンとタッグを組む事になりますが、武人として出世をします。
ブロンの魅力は、常にユーモアを持っているところ。ただの皮肉屋ではなく、仲間達が深刻な事態に陥ってもクスっと笑って我に帰るような雰囲気を作れる、そういうおっさんです。常に現実思考で、飄々としているようで実は情もある。彼こそ「理不尽な世の中で、お前はどう戦うのか」というのが明確にわかっていますね。
さて、3回に渡ってご紹介した『ゲーム・オブ・スローンズ』。ここまで読んで頂いた方はもう観たくてうずうずですよね。HuluかAmazon Primeで観れます。来年公開のシーズン8でついに完結してしまうこの超大作。今からシーズン1を見始めれば間に合います!この壮大な物語をぜひご堪能ください!
余談ですが、押井守が好きな人はこのドラマ絶対楽しめると思うんですよね。
この本なんかまさに今回の記事を書くときに参考になりました。
ちなみにその1と、michischili.hatenablog.comその2もぜひ!
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『ゲーム・オブ・スローンズ』の圧倒的世界観!音楽・衣装・言語の作り込みが凄い
先週行われた、第70回エミー賞授賞式。そこで作品賞を始めとする9部門を制覇したドラマ、『ゲーム・オブ・スローンズ』についてご紹介をしております。第2回目の今回は『ゲーム・オブ・スローンズ』の圧倒的な世界観について解説します!世界観を作るのに欠かせない音楽・衣装・言語の魅力をお伝えしましょう。 3回にわたってこの壮大なドラマについて紹介してます。是非第1回から読んで頂けると嬉しいです。
・その1『ゲーム・オブ・スローンズ』入門!登場人物3人の意外な共通点とは!? - 【ブログ】マーケターが追うポップ・カルチャー最前線
・その2『ゲーム・オブ・スローンズ』の圧倒的世界観!音楽・衣装・言語の作り込みが凄い - 【ブログ】マーケターが追うポップ・カルチャー最前線
・その3サラリーマン必見!?『ゲーム・オブ・スローンズ』が描く理想のリーダー像 - 【ブログ】マーケターが追うポップ・カルチャー最前線
音楽/ ラミン・ジャヴァディ
まずはこちらをお聞きください。
『ゲーム・オブ・スローンズ』のオープニング・テーマ曲です。
前回もご紹介したように、『ゲーム・オブ・スローンズ』は中世ヨーロッパを模した架空の世界を舞台としています。この架空の世界で玉座を巡る大戦争や、異民族との対立や、ファンタジーの要素もあるドラマです。当然、音楽もその世界観に合う物が求められますよね。
そこで白羽の矢が立ったのがラミン・ジャヴァディ。上記の曲を始めとして、『ゲーム・オブ・スローンズ』の楽曲を手がけているのが、イラン系ドイツ人のラミン・ジャヴァディです。架空の世界の話ですが、中世をイメージしている、という意味ではクラシック音楽が登場する前、というニュアンスも含まれているのでしょう。異国の地の音楽も、ジャヴァディによる弦楽器の軽快なリズムによってオリエンタルな雰囲気が強調されます。 ラミン・ジャヴァディは既に数々の映画やドラマの楽曲を手がけています。
トム・モレロをフィーチャリングした『パシフィック・リム』の音楽や、
『ゲーム・オブ・スローンズ』と同じくHBO制作の大作ドラマ、
『ウェストワールド』の音楽も有名です。
こうやって彼の経歴を振り返ると、戦闘が多い映画やドラマで起用されることが多いようですね。弦楽器を使った、リフっぽい音の刻みも1つの特徴でしょうか。ラミン・ジャヴァディはオープニング曲以外にも、様々な魅力的な音楽で作品世界に彩りを与えています。ちなみにですが、ラミン・ジャヴァディの師匠はあの映画音楽界の大御所、
ハンス・ジマーというのもびっくり。
最近ではブレードランナー2049の曲や、
ダークナイトの曲も有名ですね。
ハンス・ジマーはもうどんなジャンルでも作曲できてしまうので、(『ライオン・キング』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』の曲も担当)比較してしまうのも悪いのですが、ラミン・ジャヴァディも今後どんなジャンルに挑むのかが楽しみです。
衣装
さて、『ゲーム・オブ・スローンズ』は衣装も魅力的です。
北部を統治するスターク家の2人。左は前回ご紹介したジョン・スノウですね。
右がスターク家当主のネッド・スターク。極寒の地ならではの、毛皮の使いの衣装が印象的です。一方こちらは首都の貴族の服装。
左の女性、サーセイ・ラニスターは如何にも贅沢な織りの生地使い、上流階級の人間らしい服を身にまとい、豪華なネックレスや髪型をしています。
こちらはディナーリス・ターガリエン。様々な場面で着るドレスが変わりますが、どれも印象的なシルクのような素材ですね。隣の大陸の遊牧騎馬民族の服装も見てみましょう。
ドスラク人と呼ばれる彼らは、草原を馬に乗って駆け巡る屈強な部族として描かれます。男は髪と髭を伸ばし、鞣した皮を防具・アクセサリーとして身につけいていますね。湾曲した刀もオリエンタルな要素が見られ、印象的です。このように、地域、身分、職種、キャラクターに応じてきちんと衣装から世界観を作り込むところも『ゲーム・オブ・スローンズ』の魅力と言えます。
言語
『ゲーム・オブ・スローンズ』はイギリスを模した架空の世界が舞台、ということもあり、基本的にキャラクター達はイギリス英語を話します。しかし衣装同様、キャラクターの出身地や、身分、役職などによってそれぞれの訛りで話すようになっています。北部出身のキャラクターはアイルランド系やスコットランド系の俳優をキャスティングしたり、兵士達は兵士らしい英語を話す一方、首都の貴族達は英国上流階級の話す英語、と棲み分けられています。また、先ほど触れたばかりの騎馬民族のドスラク人ですが、最初の数シーズンではかなりの頻度で登場します。彼らはドスラク語という言葉を話すのですが、この架空の民族の架空の言語を作るのに、ちゃんとした言語学者を雇ったようです。
ドスラク語 - Wikipedia ウィキペディアにはなんとドスラク語の単語、文法、発音までも記述されているという徹底っぷり。実際にキャラクター達がドスラク語を操るのを見ていると、本当にこんな人達がいるのではないかと思うほど、世界観がきちんとしています。
まとめ
以上、『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界観(音楽・衣装・言語といった部分)についてのご紹介でした。わかりやすいCGだったり、大物スター俳優のギャラといった部分だけでなく、細かいディテールの部分にもきちんとお金と時間をかけているのがわかりますね。 脚本家の倉本聰は「大きな嘘はついても、小さな嘘はつくな」と言っていました。『ゲーム・オブ・スローンズ』はファンタジーという大きな「嘘(フィクション)」ですが、この大きな嘘に説得力を持たせる為に、世界観作りでも徹底的にお金も時間もかけてるのがこのドラマの魅力だと思います。ここまで、『ゲーム・オブ・スローンズ』の魅力を語ってきましたが、僕個人の一番魅力だと思うポイントはまだ語れていません。
それでは次回、完結編でお会いしましょう。
ちなみに、 『ゲーム・オブ・スローンズ』で豪傑なスタニス・バラシオンを演じる、スティーヴン・ディレイが出ている映画『ウィンストン・チャーチル』も役者や服装などの作り込みが凄いので興味がある方はぜひ!michischili.hatenablog.com
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