映画とドラマとファッションと

ブログを初めて早6年。平成生まれ、米国育ちの映画オタク。元パリコレブランド勤務で今はマーケターやってます。

ジョーカーが「ピエロ」な理由

突然ですが、革靴で全力疾走したことありますか?それもソールが革張りで硬いタイプのもので。今作では冒頭から主役のアーサーが革靴でガタガタと大きな足音をたてながら全力疾走します。主演のホアキン・フェニックスに何かが宿ってるようで、走る姿はどんな台詞よりも雄弁だ。

 

傑作だ、いや暴力を助長するからダメだ、と本国米国でも賛否両論渦巻く本作。演技、音楽、衣装は素晴らしいですよ。でも監督が別の人だったら、もっと良い傑作になってた気がしなくもない。とは言え、これだけ話題になるのは作品のテーマがタイムリーで観る者を揺さぶるから。

 

消費税増税に伴い、某経済新聞はこれからはニンジンの皮もおいしく食べきろう!という記事を書き、一部ネットでは叩かれてました。いつの戦時中だよ、と。一方で、企業の内部留保は過去最高の500兆円を更新。要するに、一部大企業はお金を溜め込み、庶民は増税で更に苦しむ。こうして無駄を削減しろ、災害が来ても病気になっても自己責任だ、と言う庶民切り捨てマインドが出来上がります。緊縮政策が作り出した経済格差です。今作を観た人が揺さぶられ語らずにはいられないのは、今作がフィクションの体をなした現実を鋭く抉り出す鏡だから。

 

正にピカソが言う「芸術という嘘は真実を映し出す鏡だ」です。そもそも欧州では昔からピエロや道化は貴族が宮殿に住ませ、政治を風刺してもらう口出し役を担ってきました。そういう意味ではアメコミ映画の枠を超えて、歴史的に見ると当たり前なんです、ピエロが社会を風刺するのは。

 

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16世紀・ポーランドの宮廷道化師スタンチク

日本だけでなくて世界中の先進国で今は経済格差・反緊縮・アンチグローバル化が社会問題となってます。特にヨーロッパの映画祭で評価されている近年の作品を観ると一目瞭然。『わたしは、ダニエル・ブレイク』、『万引き家族』、『ROMA』、『パラサイト半地下の家族』などなど。

 

近年のこれらの作品で描かれているのは、ニンジンの皮を食べたり革靴でも全力疾走しないと生きていけない人達なのかもしれません。(詳しくはブレイディみかこさんの記事が参考になります)

 

ちなみに、この映画では足音がはっきり聞こえるくらい丁寧に走るシーンを撮り、徐々にアーサーがジョーカーに変貌する過程を描いています。で、最後のシーンで足音は聞こえるのでしょうか?是非劇場でお確かめください。