映画とドラマとファッションと

ブログを初めて早6年。平成生まれ、米国育ちの映画オタク。元パリコレブランド勤務で今はマーケターやってます。

ヒップ・ホップ誕生を描く、Netflixドラマ『ゲットダウン』

プーマのスウェード・クラシックが印象的に使われている『ゲットダウン』。実はこには理由があるんです。今回は、Netflixが製作したヒップホップ誕生の物語を描くドラマ、『ゲットダウン』を紹介します!

ブロンクス生まれ、プーマ育ち 

舞台は1977年ニューヨーク、ブロンクス。当時は街中には貧困が蔓延り、若者は犯罪に走り、売人は薬で儲かる。今のニューヨークからは想像できないような巨大なスラムだったそうです。主人公はアフリカ系とヒスパニック系(プエルトリコみたいです)のハーフの少年、エゼキエル。f:id:michischili:20160921022130j:plain

ブロッコリーのようなアフロがいい味出してますね。当時、ニューヨークは貧困層と富裕層の住むエリアがはっきりと分かれていました。そして貧困層が住む地域、ブロンクスからヒップホップは誕生するのです。 さて、今回の服装ですがこちらをご覧下さい。

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彼はエゼキエルにヒップホップを教えてくれるシャオリンというニックネームの青年です。
赤のプーマを履いてますね。プーマのクラシックスエードというモデルです。

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70年代当時は、ディスコブーム全盛期。エゼキエルも、ディスコクラブに入ろうとするために、友達のお父さんの服を借りるシーンが描かれます。お金のある大人達がクラブのなかで踊っていた裏で、クラブに入れず、お金もない若者達は路上で新しい音楽や踊りを生み出していました。そしてもちろん、この動きはファッションとも切り離せません。 

初期ヒップホップとスニーカー

このドラマで描かれているヒップホップ黎明期の数年後、前の記事でも紹介したRUN-DMCというグループがデビューし、ヒップホップが全米に知れ渡る大きなきっかけを作ります。 

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1986年の画像ですね。

michischili.hatenablog.com さて、ドラマは77年から数年間(第2シーズンでどれくらい進むかにもよりますが)を描いてますが、少し先に進んでみましょう。RUN-DMCによって一気にメジャーな音楽の仲間入りを果たしたヒップホップですが、当時はまだまだアフリカ系、またはヒスパニック系の文化というイメージが強かったです。 そんなイメージをこのグループが壊します。

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Beastie Boys 1992年に発売された彼らのアルバム、Check Your Headのために撮られた写真。
プーマとアディダスですね。このように、ヒップホップ初期(ビースティー・ボーイズもここでは一応初期とします)の服装としては、ローテクなスニーカーを履く人がほとんどでした。しかし、のちに90年代から〜2000年程までは、ヒップホップの中心地が東海岸(ニューヨーク)から西海岸(カリフォルニア)に移り、ギャングスタ・ラップというタイプのヒップホップが流行り、服装の流行りにも変化が訪れます。The Getdownで描かれる最初期ヒップホップからBeastie Boysの流れ→ローテクなスニーカー中心NWAデビュー以降、映画ストレイト・アウタ・コンプトンで描かれるギャングスタ・ヒップホップ以降→Timberlandなどのブーツや、Nikeエアフォースワンなど、ボリュームのある靴が流行ります。

『ゲットダウン』の魅力とは?

さて、ドラマに話を戻しましょう。
主人公エゼキエルは、幼い時に親を亡くし、親戚に育ててもらっています。読書家で、教養もあり、学校の先生からも、作文の才能を認められたエゼキエル。しかし、自分の生い立ちのせいか自分に自信がなく、才能を活かしきれない。有能な学生のためのインターンの話が来ても、「どうせ金持ちの白人様の言いなりになるだけだ」、と友達に言われ決断できずにいる。そんな時に出会うのが、赤いプーマを履いたシャオリンなのです。そして、エゼキエルと仲間達はこの全く新しい、産声をあげたばかりの文化(遊び:はい、文化とは一言でいうと遊びです)にのめり込み、ラップの才能が開花する。(リズムに合わせて韻をふむのですが、思った以上に難しいんです!その難しさも描かれてます) 

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また、エゼキエルの幼馴染みであり、片思い(?)の相手がクラスメートのマイリーン。

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彼女はキリスト教の牧師を父に持ち、教会で聖歌を歌っていますが、ディスコ・スターになり、この貧困の街から出たいという夢を持っています。しかし、厳格なペンテコステ派の牧師の父からは、ディスコは悪魔の音楽だ、と断固反対されます。ディスコ音楽と教会音楽という部分もきちんと描いているのはとても勉強になります。アメリカのミュージシャンで聖歌隊出身の人は非常に多い点から、その背景を観れるのは日本に住む僕たちにとってはとても新鮮だと思います。誰もが、エゼキエルの教養の深さを評価しているにも関わらず、彼は才能を活かしきれない。誰もが、マイリーンの歌声を評価しているにも関わらず、父がその才能を使わせてくれない。 この才能のある若者二人は時代の波にのまれてしまうのでしょうか? 

このドラマ、ヒップホップ誕生物語でもありますが、若者の青春ドラマでもあり、弱者が夢を掴みとろうとするアメリカンドリームも描いてます。服の話からずれてしまいますが、ヒップホップ誕生と切ってもきれないグラフィティ(落書き)の文化もリアルに描いています。この夏公開されてからは、アメリカで大ヒットしたみたいですが、日本でも同じ公開時期に観れるのはいいですね。僕も寝る間を惜しんで一気見してしまいました。今回はスニーカーを中心に解説しまたしが、いかがでしたでしょうか?ちなみに未だにヒップホップとスニーカー(ファッション)の関係は切っても切り離せず、最近ではKanye WestAdidasと共同でプロデュースしているyeezyというスニーカーが人気だったりします。f:id:michischili:20160923002732p:plain

無法地帯の若者達を潰しにかかる嫌な大人達と、

現状を憂いながらも、もっと良くしていきたい!と反発する若者達の熱血ドラマ。

ヒップホップ誕生の裏側は、小説よりも奇な血沸き肉踊る若者達の叫びの物語でした。どっちが勝ったって?それはもう皆さんご存知ですよね 本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!

 

スーツも建築もお洒落!トム・フォードの『シングル・マン』

お洒落映画といえば、これ。ファッション雑誌ポ◯イの表紙にの載ったこの映画、実は建築もかっこいいんです。

シングルマン (字幕版)

シングルマン (字幕版)

 

トム・フォードって誰?

ファッション好きな人ならば、聞いたことがあるでしょう、トム・フォードの名を。
(ブラウンではないです。)
POPEYE(ポパイ) 2015年 12月号 [雑誌]

POPEYE(ポパイ) 2015年 12月号 [雑誌]

 

 この映画を監督したのは、実はファッション・デザイナーとして有名なトム・フォード。アメリカ人ですが、グッチやイブ・サン・ローランのデザイナーも務めた後、自身のブランドを手がけてます。近年、様々な業界で「クリエィティブ・ディレクター」という肩書きを名乗る人が増えてきていますが、彼はその先駆けの一人です。ざっくりいうと、商品(服)だけでなく、その他の店舗の内装、ホームページ、広告ビジュアル、人によっては顧客が買った物を入れるショッパーまで、ありとあらゆる面でのブランドのイメージのコントロールを担う役職です。彼はファッション業界で一早く、この肩書きで伝統あるGucciというブランドの再生に成功しました。(Gucciはここ数年はまた新しいクリエィティブ・ディレクターの起用で爆発的に売り上げを伸ばしていますね)

トム・フォードとスーツ

さて、そんなトム・フォードですがメンズ服に関してはイギリス贔屓なようで、スーツにも定評があります。 ここで一句。「男なら、一度は着たい、トム・フォード」とか言ったり言わなかったり。

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ここ最近のダイニエル・クレイグが主演している007ではトム・フォードのスーツが使われています。所謂王道、ですね。さて、では実際の映画の服装をチェックしましょう。60年代を舞台にした映画で主人公は大学教授として登場します。 

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黒縁眼鏡に、細身のタイ、そして深いVゾーンのダークブラウンのスーツ。カッコイイですねぇ。これはある程度年齢を重ねないと出せないカッコよさだと思います。
 

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ちょっと画質が悪いですが、この二人のシャツの襟とネクタイの太さを見比べていただくと、いかにコリン・ファースが演じる主役のスーツがすっきりしているかがわかりますね。

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襟の収まりと、ネクタイの小さなノット(結び目)が洗練された雰囲気を出し、やや大きいフレームの黒縁眼鏡がより理知的に見せています。いかにも大学教授らしい。

建築もかっこいい。西海岸らしいガラス・ハウスとは?

 トム・フォードは元々美術史やインテリアデザインを学び、俳優も目指していただけあって、細部に到るまでの徹底した美意識は流石です。この映画でスーツと同じくらい重要なお洒落要素である、とある名建築の紹介もしましょう。主人公が住む家はジョン・ロートナーという建築家が設計した「ガラス・ハウス」という建物です。アメリカ西海岸らしい、暖かい気候と明るい日差しを取り込めるような大きな出窓と、ガラスの戸が気持ち良さそうですね。湿気の多い日本では同じ様な設計は難しそうです。

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空間を区切るような大きな壁は少なく、代わりに空間を上から包むような広い屋根も特徴的ですね。実はこの家を設計したロートナーは、近代建築の3大巨匠?の一人と言われる、フランク・ロイド・ライトに師事していたんです。屋根の広さや少しエスニックなテイストにその系譜が現れていますね。 

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 光の差し込み具合だまたいい。建築もそうですが、インテリアや小物も60年代らしさを忠実に再現していますね。まさに神は細部に宿る。服も建築もこだわっているこの映画、デザインに興味のある方は是非観てください!ちなみに、以前紹介した映画、『マイ・インターン』もこの映画同様、クラシックなファッションの良い参考例です。『シングル・マン』はスーツと建築がメインでしたが、『マイ・インターン』は小物を中心に参考になる物がたくさんです!

そして『シングル・マン』と同じく60年代を舞台にした映画に、『さらば青春の光』もありますね。同時代でも、大西洋の向こうではこんなカルチャーが生まれていたんですね。モッズのスーツと『シングル・マン』を比較しても面白いです。

michischili.hatenablog.com

興味ある方は是非、他の記事も読んでみてください!本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた! 
 

ズートスーツって何!?映画『マルコムX』で学ぶチンピラスーツ

【ズート・スーツ】1940年代にアフリカン・アメリカン系ミュージシャンや、マフィアなどの服装としてよく見られたズート・スーツ。キング牧師と並ぶ有名な解放指導者マルコムXは、実は若い頃はズート・スーツを着るようなチンピラでした。今回は映画『マルコムX』を元にズート・スーツの解説をします。

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ズート・スーツ

さて、マルコムXはきちんとしたスーツに身を包み、メガネをかけているインテリのようなイメージが強いですね。しかし、若い頃はやんちゃでした。やんちゃを通り越えてチンピラでした。その頃の服装がこれ。

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またはこれ。

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ちょっと暗くて2枚目はわかりにくいですが、解説をしましょう。

1940年代にアフリカ系アメリカ人のミュージシャンや、マフィアなどの服装としてよく見られたズートスーツ。

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特徴としては、

・極端につばの長いハット

・極端に太いラペル(襟)

・極端に長いジャケット

・極端に太く、ハイウェストなパンツ

・極端な色、または柄使い

となります。

とにかく全てが極端ですね。

ヨウジ・ヤマモトとズート・スーツ

これ、今そのまま着たら目立ちますが、日本のブランドでこの精神を受け継いでるブランドがありました。

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色や柄は落ち着いてますが、極端なシルエットはまさにズート・スーツですね。以上ヨウジ・ヤマモトの服でした。

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映画、マスクのジムキャリーの服装もズート・スーツ。そしてこちらは2016年10月発売のGRINDという雑誌の表紙。

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 気だるそうな表情に、大きいサイズのジャケット、シャツはインしてハイウェストパンツ、そしてつばは広めです。この手のつばの広いハットは一時期とてつもなく人気がありましたね。僕の職場ではよく見かけましたが、そろそろこの流行りも落ち着くのではないかと思います。

映画に戻りましょう。ズート・スーツが登場する、との情報をキャッチし、いつか観ようと思っていた名作を観れました。名作ですが、良くも悪くも内容がヘビーです。スパイク・リーの描きかた、カメラワークももちろんですが、デンゼル・ワシントンの演技がまたいい。カリスマが宿ってます。服装から入るもよし、作品から入るもよしですが、これは観ておいてよかったです。一般的には、マルコムXキング牧師と比べて過激な発言をしていた、との見方をされますが、実際はどうだったのでしょう?映画は脚色がされていますが、マルコムの人柄と苦悩がとてもよく描かれています。ちなみに、服装とその背景のカルチャーに興味を持ったそこのあなた。このブログでは他にも1910年代の英国マフィアの服装を解説している記事があります。今回のズートスーツと是非見比べてみてください。michischili.hatenablog.com

他にも、スーツと言えども、モッズ・スタイルのスーツはまた全然違う成り立ちと美意識があります。モッズと言えば、日本で大人気、カラフルかつ品のあるポール・スミスのルーツのスタイルとも言えますね。モッズ・スタイルは当時の最先端の不良ファッションだったことがわかる映画『さらば青春の光』などもあります。

michischili.hatenablog.com

スーツといえども、地域、時代、音楽、などとの繋がりなどでこんなにも豊かな歴史があるんだ、と発見があると思います!本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!

ポール・スミスも?今更聞けない、モッズって何?『さらば青春の光』

本国よりも日本の方が売れていると言われる英国ファッション・ブランド、ポールスミス。現代版のモッズ、ポール・スミスは不良のイメージとはかけ離れてますが、実はモッズの起源って意外とぶっ飛んでたんです。今回はそんなモッズについて解説します!

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1960年代後半のイギリスの若者カルチャーとして後世に大きな影響を与えた「モッズ」。
厳密に言うとこの映画で描かれているのは、初代モッズよりあとの「ネオモッズ」と言われているみたいですが、とりあえずここでは「モッズ」ファッションの解説をします。
さて、主人公のジミーを始め、「モッズ」達を特徴づける格好を解説しましょう。 
1)細身の三つボタンスーツを着る。もちろんサイドベンツで
2)通称「モッズコート」と言われるM-51を羽織り
3)フレッド・ペリーのポロシャツを着る時もあり、
4)改造したヴェスパやランブレッタといったイタリア製のバイクを乗り回してました。
このブログでは特に1)と2)について詳しく見ましょう。

細身のスーツ

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スーツは細身であるのと同じく重要なのがVゾーン。 Vゾーンが狭い為、シャツとネクタイの露出が少ないのがお分かりでしょうか。ラペル(ジャケットの襟)も狭く、ネクタイも細身。スーツのベント(背中にある縦の切り込み)もセンターベント(真ん中に一つ)よりはサイドベンツ(左右に一つずつ)を好んだ。
注)これでラペルもネクタイも太く、Vゾーンも深いとイタリアンなオシャレオヤジテイストになります。 デビュー当初はビートルズもこんな格好をしてました。

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Vゾーン、狭いを通りこしてほとんどないですね。ビートルズに関してはロッカーテイストなリーゼントに革ジャン時代もあり、中期から後期にはロン毛にフレアパンツというヒッピーな時代もあるので厳密には「モッズ」ではないですが、この服装は明らかに同時代に流行っていた「モッズ」を意識していたでしょう。

モッズコート=M-51

カーキのコートはざっくりとモッズコートと呼ばれていますが、基本的にはこの映画の中でも「モッズ」達が着ていたのはM-51というタイプのコートです。

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M51 (モッズコート) - Wikipedia

1951年にアメリカ軍の野戦用のコートとして採用されたからM-51と言われています。
似たようなものにM-65やN-3Bもありますが、「モッズ」はM-51を着てました。
踊る大捜査線の青島もこれを着てますね。MだかNだかわかりにくいですがとりあえず、「第二次世界対戦以降のコート」というポイントがあります。 
ようするに、トレンチコート、ダッフルコート、ピーコートといったイギリス軍由来のコートや、バルマカーンコート(ステンカラー)やチェスターコートなどといった伝統的なフォーマルなコートではダメなんです。もちろん、ロッカー達が愛用していたレザージャケットも違います。
ここに、「モッズ」の名前の由来があります。「モッズ」は、上記の古い保守的なコートを着る「保守的」な人達に対抗して、「モダン」な音楽を聞き(ザ・フーキンクス、もっとコアな人達はレゲエやダブ)、「モダン」なコート(M-51)を羽織り、 ゴリマッチョなハーレーではなく、「モダン」なヴェスパやランブレッタを乗り回す。古い世代と比べて僕たちはより洗練されていて現代的だ。We are Modern→We are the Modsと呼ぶようになったのです。
ちなみに同時期に様々な形で旧世代に対するカウンター勢力が登場します。
ファッション界ではモッズの他にも、この2人のデザイナーが業界の変化にうまく適応した革新者として歴史に名を残していますね。旧世代に対してのカウンターをスタイルだけでなく、店舗の出店地域としても表明していったサン・ローラン。

michischili.hatenablog.com

プレタポルテの先駆けとなったマリメッコも。創業者は社会と戦う女性でした。

現代のモッズ  

さて、このモッズファッションは現代でも脈々を受け継がれています。
日本で大人気のポール・スミスもルーツはモッズですね。あとは、

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これ。このバンドも(Bawdies)、

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注)これはVゾーン深いですが

現代の日本でも使われる「モッズ風」のルーツはこの映画に描かれている「モッズ」ファッションになります。さて、この映画で主人公ジミーは青春とさらばしたのかどうかわかりませんが、60年代も終わり70年代になるとヒッピー達が登場します。そして「モッズ」の系統は同じイギリスで別のカルチャーへと引き継がれます。怒れる若者達は、よりディープなレゲエやダブを聞き、髪をモヒカン、またはスキンヘッドにし、細身のデニムにドクターマーチンやジョージコックスを履く、「パンク」として登場します。あ、ちなみに同じ60年代が舞台でスーツの着こなしがお洒落な映画、『シングル・マン』と比較しても面白いですね。『シングル・マン』はアメリカが舞台でおじさんが主役ですが、スーツといえどもこんなにも豊かな歴史があるのだなぁとしみじみ思うでしょう。

michischili.hatenablog.com

 という事で、僕はまだ青春の光を追っかけます。本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!それではまた!

『マイ・インターン』とクラシック・ファッション

はじめに

紳士諸君、ハンカチを持ちましょう。

それも自分用のではなく、涙を流す女性のために。
 

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と、臭い台詞から始まりましたが、今回紹介する映画は国内では女性向けにマーケティングされてるみたいですが、世の男性こそ見るべき映画です。

『ストレイト・アウタ・コンプトン』のファッション

 

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  今なお音楽界で大きな影響力を持つDr. Dre(ヘッドホンブランド、Beats by Dr. Dreが最近Apple社に買収されましたね)や、映画製作、俳優としも活躍もするラッパーIce Cubeなどが所属していたグループ、N.W.A。1986年にデビューを果たした、このヒップホップグループは色な意味で型破りでした。 

『最も危険な時代が生み出した最も危険なやつら」の服装、気になりますねぇ。服の話をする前に簡単にヒップホップのおさらいをしておきます。

ヒップ・ホップ黎明期ーN.W.A.以前

【1970年代ヒップホップ誕生】

NYの貧困街でヒップホップ誕生。当時はディスコが大ブームでしたが、この貧困街に住むアフリカ系やヒスパニック系の若者達はディスコにいくお金がなく、街角でレコードを流してパーティーをしてました。 

【ヒップホップの4大要素】

【DJ】レコードを二枚以上同時に操り、曲の間奏部分(break)だけを流すとパーティーに来る人達の反応が良くなることを発見したのが、break beatsの始まりで、ここにヒップホップのDJが誕生します。

【MC】DJが流すビートに合わせて韻(rhyme)を踏む詩(lyrics)を、時には即興で作り、ラップをするのがMC。語源はMaster of Ceremony(司会)。ざっくり言うとMC=ラッパーです。

【Break Dance】DJの流すbreak beat に合わせて踊り出した人達をb-boyと呼びます。blackでもbadでもないのでご注意ください。

【Graffiti】落書きです。もちろん違法な物も多くあります。しかし、イーゼルを立て、キャンバスの上に描くという西洋美術とは異なる背景から生まれたこのストリートアートは一部ではありますが今では正当な(そんな物があるのかも怪しいですが一応)アートとして認められています。(古くはバスキア、ヘリングが活躍し、現代ではバンクシーなどもいますね)

さて、上記の4つの要素が70年代からじわじわと文化として広がっていきました。ギャング達の血で血を洗う戦いを終わらせる代わりに、ラップのバトルやグラフィティによる縄張り争いに変わっていったという側面もあります。この頃はまだヒップホップはマイナーな音楽でしたが、多くの若者達のハートを掴んでいました。最初期ではないですが、ヒップホップがメジャーになったきっかけを作ったグループ、RUN DMCの服を見てみましょう。

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Kangolのハットをかぶり、adidasのジャージを着て、superstarを(たまに紐なしで)履く。初期のヒップホップファッションは今多くの人がイメージするダボダボのファッションではなかったのです。stansmithの復刻、そしてsuper starの復刻があり、kangolではなくてもこのタイプのハットがここ数年メンズファッションで人気が出ているのも、元はここなんですね。これが1986年の写真。

ギャングスタ・ラップ、コンプトンからデビュー 

この2年後、1988年に今回の映画の主役のN.W.A.達はデビューアルバムをリリースします。そのNWAの服装を見てみましょう。f:id:michischili:20160101031955p:plain

 

不良ですね。彼らが育ったカリフォルニア州コンプトンは全米で最も治安が悪いと言われてた地域でした。麻薬の売人をやったり、ギャングが銃を持ち込んでスクールバスに乗り込んでくるような日本では考えられない環境の中、彼等は音楽を通して「クリーン」に成功者になろうとします。映画の中にも描かれていますが、ただ仲間同士でだべってるだけで、パトカーがやってきて、突然身体チェックをうけるなど、理不尽な出来事がたくさんありました。そんな彼らは「ギャングスタ・ヒップホップ」と呼ばれていました。さて、このギャングスタヒップホップの服の特徴を幾つかご紹介しましょう。

1)地元のスポーツチームのキャップやジャージを着る

ヒップホップは地元愛が強いのが特徴です。自分の育った街を代表する、という歌詞はラップの中によく出てきます。そしてスポーツの世界もヒップホップの世界と似たように、実力勝負で上の世界へと行ける。同じアフリカ系アメリカ人の多くが活躍しているスポーツと親近感を持ったのも頷けますね。

 2)ダボダボファッション

ヒップホップと言えばダボダボな服装、というイメージがありますね。でもこれには諸説ありまして、

・お金のない親が子供の服を買うときに、大きくなっても着られるように、と大きいサイズを着せた

・ギャング達の仲間内での自分の「悪さ」を誇示するため、刑務所で履かされていたような、脱走しにくい極太のパンツを履く。

3)ゴールドアクセサリー

派手で、ギラギラしているとなお良いこのアクセサリーはヒップホップスラングでは、「bling-bling」と呼ばれてます。これも貧困層出身の若者達が、マイク一本でのし上がって(またはDJのスキル)成功したことを誇示するため、と言われています。 

ヒップホップの今 

いかがでしょうか?NWAデビュー以降は「ギャングスタ・ヒップホップ」が主流として1990年代前半から2000年代前半まで君臨します。そして今のヒップホップのトップに君臨するPharrellKanye Westが出てくることで、ギャングスタ・ヒップホップが一つのジャンル、歴史的区切りとして認識されるようになります。(PharrellやKanyeは全然ギャングではないですし、歌詞も、服装も、そして何よりも「音」が全然違いますね)

長くなってしまいましたが、いかがでしたか?かつて、ロックが尖った若者達の音楽で文化であった時代から、今はヒップホップがある種の尖った新しい音楽・文化を発信している時代である、と見ると色々面白いかもしれませんね。最後にこんな画像でお別れを。http://blog.apparelzoo.com/evolution-of-hip-hop-culture/f:id:michischili:20160101025506p:plain 


12/19(土)公開『ストレイト・アウタ・コンプトン 』予告編

 

 

今作に登場するDr. DreはJimmy Ivoneと組み、Appleによる企業買収で史上最高額となったBeats by Dreを立ち上げたました。そこに行き着くまでのドラマがそのままポップ・カルチャーの歴史、数ページを占めるほどの面白さがあります。ヒップ・ホップ文化の持つ起業家精神アメリカの音楽ビジネスとマーケティングについて学べるので、そのあたりに興味のある方はNetflix制作のドキュメンタリーも是非ご覧ください!

michischili.hatenablog.com

ちなみにヒップホップ誕生物語を描いた、『ゲット・ダウン』というNetflixドラマもあります。『ロミオとジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』で有名なバズ・ラーマン監督のドラマです。michischili.hatenablog.com

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モードの帝王。映画『サン・ローラン』で学ぶファッション史

ファッション史に名を轟かせる巨人、イヴ・サンローラン。サンローランの死後、彼の人生を描いた映画はたくさん出ましたが、彼がファッション史(産業も)においてどんな功績を残したかが、とてもよくわかる点で、僕は今作をオススメします。

 
映画の紹介の前に、簡単にファッション業界の歴史を振り返りましょう。

パリの右岸左岸

 
ファッション業界の中心地がパリ、という事に異論はないでしょう。でも実はそのパリの中でも、時代によってメインどころが移ったんです。 
【右岸・戦前10年代〜・オートクチュール
シャネル、ディオールバレンシアガなどが活躍した20世紀前半。
顧客に合わせて服を作るオートクチュールは、ごく一部の上流階級のみに許された特権的なものでした。この頃、多くのブランドは伝統的な街並みのパリ右岸に店を構えました。上の地図で見ると、セーヌ川を挟んで北側の右岸には凱旋門シャンゼリゼオペラ座ルーヴル美術館、そしておしゃれインテリア雑誌などでよく見るアパルトマンといった所謂パリ、の街並みが残ります。(ナポレオン3世とオスマン知事によるパリの大改造の賜物ですね)
【左岸・戦後60年代〜・プレタポルテ
一方、左岸にはガチガチな都市計画の名残はあまりありません。
サン・ローランは自身の名を冠したブランドの最初のお店をこの左岸(フランス語でリヴ・ゴーシュと言います)に構えます。
ちょうどその頃、タブーとされていた膝だしミニスカートを提案したクレージュや、
海の向こうのイギリスではモッズが出てきたり、ショートカットのツィッギーが出てきたりします。若者の風潮としては前の世代に対するカウンターという考えが模索されます。(モッズについて興味がある方は是非こちらの記事もどうぞ)
同時期にファッション雑誌や広告などが普及し、シーズン毎に新しいデザインを考案するという仕組みが確立されます(コレクション)。サン・ローランのプレタポルテの少し前ですが、ほぼ同時期にロシアと国境を隔てたフィンランドからマリメッコというブランドも登場しますね。このブランドは完全にプレタポルテの先駆けとも言えるでしょう。(マリメッコに興味がある方は是非こちらの記事もどうぞ)

スモーキングジャケット(タキシード) 

さて、前置きが長くなってしまいました。
この映画の舞台はちょうどモッズやツィッギーが登場したり、ファッション雑誌と写真技術が一気に普及した1960年代から1970年代のことです。この約10年の間にサンローランは後世に残る素晴らしいルックを提案しましたが、その中でも僕が面白いと思った物を2つご紹介。

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ドイツ出身の写真家、ヘルムート・ニュートン撮影によるこのルックは今見てもかっこいい佇まいですね。映画の中ではこの写真の撮影をする現場が描かれています。当時、女性がスーツ・パンツ(または男性服)を「おしゃれ」として着るというのはかなり衝撃だったでしょう。シャネルもスーツスタイルを提案していましたが、それは顧客の依頼によって作られるオートクチュールの範疇の中。しかも流石にパンツスタイルに髪を撫で付けるいかにも男性的な要素はまだありません。そして当然の事ながら、ファッション雑誌や写真技術もそこまで普及していなかった時代なので、そこまで世の中に対しての影響力というはありませんでした。
一方、サンローランはプレタポルテ(ブランドによる提案)で、メディアを通し、(ファッション雑誌や写真技術の普及)市場に対して新しいスタイル(女性像)を「これぞ新しい美しさだ!」提案し確立したのが革新的ですね。 

バレエ・リュス

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映画のクライマックスを飾る1976-77年秋冬コレクション。極度のプレッシャーの中、お酒と薬物にはまり、堕落したサンローランは入院をしてしまいます。その入院生活から復帰後の最初のコレクションです。上記のスモーキングが、都会的で、男性的、ある種無機質なスタイルであるのに対して、このコレクションは一貫してロシアのバレエ団の衣装に見られるようなエスニック(民族的)なスタイルがベースにあります。ロシア、インド、モロッコなどの民族衣装のディテールを取り入れながらも、スカートとコートは共にボリュームのあるシルエットにすることで統一感がでますね。 
2種類のスタイルを紹介しました。これ以外にも様々な新しいデザインを作り出してきたサンローランですが、ポイントは顧客の要望に応える(オートクチュール)だけでなく、顧客、いや、もっと言えば世の中(市場)が想像もしていなかった新たなスタイルを打ち出し続けた(プレタポルテ)のが彼の功績でしょう。メディアを通して、新しい女性像を提案し、「女性の味方」「女性の美しさを変えた」と言われているのがサン・ローランがモードの帝王と言われる所以でしょうね。
 
さて、この映画は人間関係のドロドロや(性描写多め)、プレタポルテオートクチュールを両立する難しさ、ライセンシングやフランチャイズをめぐる経営陣の攻防なども含めたドロドロも描いていてとても興味深いです。ライセンシングって何?と思った方は今年報道された国内アパレルの一大ニュースをご覧ください。
 
 
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スポーツ・ファッションと言えば、この映画。『ロイヤル・テネンバウムズ』がお洒落!

今回ご紹介する映画は『ロイヤル・テネンバウムズ』 です。 

 

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監督はアメリカ人でありながらも、アメリカよりもヨーロッパや日本で人気のある印象の、ウェス・アンダーソン。この監督、アメリカ南部のテキサスという、カウボーイ的なアメリカン男子が多いイメージの州出身ですがね、本人は全然違うタイプです。今風に言うと草食っぽい。

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コーデュロイや、ベルベットのセットアップをさらっと着こなしてるのがトレードマークです。 

テニス・ファッション 

そんなウェス・アンダーソンが作る映画は作り物感が満載です。もちろんいい意味で。 豊かな色彩、奥域の無い紙芝居の様な独特なカメラワークに、そして何よりもこれから紹介するような個性豊かなキャラクター達がいて、クスッと笑えてどこかジーンとくるアンダーソンワールドは作られています。この映画は、家族仲の悪いテネンバウム 家の物語。天才兄妹3人と学者の母が暮らす屋敷に、元弁護士で家を出て行った放蕩父?が数年振りに戻り、関係を修復しよう、という話。この兄妹の次男、リッチー・テネンバウム のファッションに注目。

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キャメル色のコートがいいですね。 でもヘヤバンドもして、パッと見、危ない人ですねえ。

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サングラスもかけたら尚、怪しい。。  このリッチーは天才テニス少年と持て囃されていたにもかかわらず、突如として引退、そして世界中を船で旅するという一癖あるキャラクターです。さて、この服装、突拍子もない映画用の衣装だと思いきや、こんなものを見つけました。 Vogue Homme 10月号「グランドスラム」 

 

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特集のタイトル通り、テニスに着想を得たのでしょう。(もしからしたらこの映画にも影響受けているかも)そしてこの特集(映画)は今のファッションのトレンドを映し出しているのです!

スポーツ・ミックス・ファッション 

ファッション業界ではここ数年、スポーツテイストを取り入れることが一つのトレンドになっています。ニューバランスのスニーカーブームに火がつき、アディダスによるスタン・スミスの復刻、ナイキによるエアー・マックス、やハラチの復刻などと、スポーツメーカーによるスニーカーブームが大きな波となっていますね。 

スポーツ×ファッションが今注目される理由とは? | Fashionsnap.com

この波は、いわゆるラグジュアリーブランドと呼ばれる高級ブランドにも影響を与えました。セリーヌによる高級スリッポン、ジバンシィやラフ・シモンズによるナイキやアディダスとのコラボレーションも記憶に新しいです。

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 スポーツ・ブランドとデザイナー・ブランド

さて、足元から始まったスポーツブームですが、実際の服にもスポーツ要素を取り入れる動きが出てきています。スポーツウェア独特の発色のいい蛍光色などをふんだんに取り入れるサカイや、このブームが始まる前からナイキとコラボレーションをしたライン(gyakusou)を発表していたアンダー・カバーなどはその筆頭でしょう。

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NIKE x sacaiによるコラボレーション

 別の視点でみると、スポーツテイストを取り入れ、より大きなトレンドである、「リラックス感(抜け感)」を演出できるかどうか、というのがポイントになります。

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キャメルコートにスニーカー、とてもわかりやすい例ですね 。アンダーソン監督本人の服装も、リッチーの服装も、本来であれば比較的フォーマル、またはオジさんっぽい服装ですが、色や素材の組み合わせで見事に抜け感を出しています。こうやって俯瞰すると、映画の服装も怪しすぎず、違和感なく真似できるかも?と思う方、やはりあのヒゲは結構インパクトありますので、流石にそこは真似はしなくてもいいかもですね。昨今流行りのスポーツ・ファッション。ラグジュアリーブランドもこぞってスポーツテイストを取り込んでますが、この映画は遥か昔、2001年の制作。やっぱウェス・アンダーソンはお洒落だわ。

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ [DVD]

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英国マフィアの激渋ファッション。髪型もイケてるドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』

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1910年代、イギリス・バーミンガムを拠点とするアイルランド系マフィアのドラマです。このドラマ、内容ももちろん面白いんですが、髪型もファッションも激渋でイケてるんです。

ツィードと髪型 

さて、このドラマの主人公であるトミー・シェルビー(下の写真で右端の人)や主要なキャラクターの多くはキャスケットを被り、ツィードのスリーピースジャケットを着ています。 

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キャスケットとは前につばがあるふっくらとした帽子。ハンチングよりボリュームがあります。新聞配達をしていた少年達がかぶっていて、ニュースボーイキャップとも言われますね。

そしてスリーピースとは、ジャケットの下にベストを合わせて完成されるスタイルですね。ベストではなく、ウェウストコートというのが正式で、ジャケット、パンツ、ベスト全てが同じ生地であるのが本来のスーツの姿です。さらに、ベルトではなく、サスペンダー(英国では"braces"ブレイシーズと言います)をつけるのが正式です。そして首元には白の丸襟のシャツ。この着こなしが、きちんとしているけど、ちょっと外している、アンチ・ヒーロー像を描くのにぴったり。

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髪型もかっこいい。トップ部分は量を残しつつ、サイドはスッキリ。クラシックなテイストのあるツーブロックですね。服装のテイストにしっかりあった髪型です。

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左)トーマスの兄、アーサー・シェルビー

右)主役のトーマス・シェルビー

アーサーはオールバックの髪型に対して、トーマスは髪を前に流す髪型。同じツーブロックでも、微妙に違うニュアンスの髪型でキャラ作りをしたのは上手いなぁ。と関心。 

イギリス紳士とイタリア・マフィアのスーツ

ちなみに、上記の生地のスーツは当時も今もフォーマルな生地ではありません。上記が労働者の服装を体現していたのに対して、上流〜中流階級の服装は刑事役のキャラクターが着ています。

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ボーラーハット(山高帽)を被り、スーツの生地もツィードよりはフランネルのような綺麗な生地に見えますね。こちらのほうが英国ファッションの中でも正当な服装に近いです。さらにこのドラマ、敵対するイタリアンマフィアも登場しますが、イギリスとイタリアのそれぞれの国の服の特徴をきちんと表しています。

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フェドラハット(中折れ帽)を被り、色鮮やかに着こなす。フェドラハットといば、イタリアのボルサリーノ社のハットが有名ですが、前述したボーラーハットより柔らかいため、ソフトハットとも言われます。

イギリス・スーツとイタリア・スーツ 

ブランドや物によっては違いますが、国別のスーツの特徴をまとめると、イギリスは質実剛健、悪くいえば地味。イタリアのスーツは、軽く、華やか、悪くいえばチャラい。

もちろん本家はイギリスなので、イギリスの服を知っておくのは損ではないでしょう。

とはいえ、このドラマのまんま、洋服を現代日本で来たらコスプレっぽくなりますので、この服装の雰囲気が感じられて、日常でも取り入れられそうなポイントとブランドを紹介して終わります。簡単なのは、何時もの白シャツを丸襟に変えてみる。もちろんネクタイのノットは小さめで。それだけで首回りの印象が変わります。

ブランドで言えば、ポール・ハーンデン

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ネメスや、ナイジェル・ケーボーンもピーキー・ブラインダーズっぽいですが、ドラマの男達から感じるストイックさ、近より難さ、そしてジャケットのかっこよさでいえば、やはりポール・ハーンデンではないでしょうか。ポール・ハーンデンは値段的にも近より難いですが、いつかさらっと来こなせるようなおじさんになりたいですね。

 

ちなみに、スーツやメンズ服のことが気になったそこのあなた。このブログではこれ以外にもスーツが魅力的な映画をたくさんご紹介しています。映画史に燦然と輝く名作のイタリア映画『8 1/2』や、ファッション・デザイナー自ら監督をした映画『シングル・マン』はクラシック、かつ品のある大人なスーツスタイルが魅力的。

michischili.hatenablog.com

一方、もっとスーツを崩したやんちゃスタイルといば、ヨウジヤマモトにも引き継がれている極端なサイズ感のズート・スーツが見れる映画『マルコムX』や、日本で大人気、カラフルかつ品のあるポール・スミスのルーツとなったモッズ・スタイルは当時の最先端の不良ファッションだったことがわかる映画『さらば青春の光』などもあります。

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 スーツといえどもいろんな地域や時代、音楽との繋がりなどでこんなにも豊かな歴史があるんだ、と発見があると思います!本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!

眠くなるけど美しい。映画『ストーカー』はナウシカの元ネタにもなった

やっと見れました、ロシア出身の監督タルコフスキーによるストーカー。

1979年の映画ですが、国内ではなかなかレンタルができなかったところに最近やっとDVD化されてツタヤで借りられました。

 

念の為ですが、この「ストーカー」とは、帰り道に自分の後をつけてくる、あの危ない人のストーカーではないです。本来は「獲物を狩るハンター」という意味合いが強かったみたいです。

 

ストーカー 【DVD】

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とりあえず、あらすじから。

【あらすじ】

ある村に隕石が落ちた。その村は焼け、多くの人が犠牲になり政府はその村周辺を立ち入り禁止の「ゾーン」と名付けた。

厳重に警備されたゾーンの中心にはどんな希望でも叶えてくれる「部屋」があるという。そしてその部屋を求めて「ゾーン」に立ち入ろうとする者がいるが、生きて帰ってこれた者はほとんどいないという。

 

物語は、このゾーンの中に精通しているゾーンの道先案内人(「ストーカー」)のもとを「科学者」と「小説家」が訪ね、ゾーン入りをするところから始まる。

 

三人は無事ゾーンに入れるのか。

そして希望の「部屋」に辿りつけられるのか。

ゾーンの正体とは。

 

 

【感想・考察】

まず、この監督の映画は眠くなります。

この監督は惑星ソラリスを最初に見たのですが、そちらもかなり眠くなります。

 

それよりは個人的にはストーカーのほうがよかったです。

(今見直したらソラリスもよく見えるかも)

というかストーカーはかなり好きな映画です。

 

眠くなる理由:

・セリフが少ない

・セリフがあったとしても、抽象的な言葉が多い

長回しが多い(映像をゆっくり、じっくり見せることを重視している)

 

と、手放しに絶賛できないですし、誰にでも勧められる映画ではないです。

でもこの眠くなる要素も含めてこの映画は強烈に印象に残るんです。

 

 

 

で、演出で面白かった点。

 

【演出メモ】

①モノクロで描かれた「現実」世界

物語の冒頭はモノクロにちかいセピア調の色で始まります。

そしてこのセピア調の色合いは現実世界(ゾーンの外側)を描くときに使っています。

そして冒頭ではストーカーの奥さんが怒ってるんですね。

「あんたまたあそこに戻るつもり!?また牢屋に入りたいの?」

「ろくな夫じゃないからろくな子供も生まれないじゃないの」

(娘は足が不自由で喋ることもできないみたいです)

みたいなことをいってかなりくらーい雰囲気でスタート。

そしてこの部分が割と長い。

 

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こんな感じ。

 

でもこの描き方をすることで、この街の匂いや湿っぽさも伝わってくるような効果があるんです。写真家でいうと宮本隆司という廃墟や建築を撮る人に似てる。

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宮本隆司

 

 

 

②「ゾーン」内で一気に花開く色彩

くらーい重い雰囲気でスタートする映画ですが、「ゾーン」内にやっと入ると画面は一変。色彩が一気に花開き!

 

と思いきや、確かに綺麗なんだけど、ゾーンは廃墟と化した村なのでどこか寂しげ。

 

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でもどこかに懐かしさや暖かさが感じられました。

 

さて、冒頭では頼りなさそうな人物として描かれていたストーカー。いざゾーンに入ると急にイキイキし始める。ストーカーにとってはゾーンが「現実」なのかもしれないですね。

 

③不思議な画

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ゾーンの中で「部屋」にたどり着く直前のシーン。

具体的にどんな場所か忘れてしまったけど、この画を見て、とても宮崎駿っぽいと思った。ナウシカ腐海もののけ姫のシシガミの森とか。(もちろん、シシガミの森は屋久島の森がモデルになってるというのは知ってます。)

まぁ過去のインタビューで宮崎さんはタルコフスキーに言及してるので、少なからずこの映画の影響は受けてるのでしょう。

 

 

④ゾーンから帰還した後の「現実」の描き方と娘の変化

と、ここは物語の核心だと思うので見てからのお楽しみに。

 

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SFのような設定だけど、最先端の機械は全く登場せず、(最後のあのシーンだけ特別)むしろ機械や文明が朽ちた世界をタルコフスキーはよく描く。

 これは侘び寂びのような美意識にも通じる気がします。坐禅のような理性では捉えられない部分もあるかも。

という意味では眠くなるのも、もしかして計算済みなのかもしれない。観客の意識が朦朧として、映画のシーンがもやもや見えるようにしてる。眠い時に心に響くものがある? 

 

ちなみにこの白黒がカラーに変わるという演出は僕の好きな押井守が監督した実写映画のアヴァロンでも引用されてます。

アヴァロン Avalon [DVD]

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 シンドラーのリストでも白黒に効果的に赤を足したりしてたかな。

 あと、ヴィム・ヴェンダースのベルリン天使の詩でもやってたか。

 

 

チェルノブイリ原発事故を予言するかのような描写など、文明批判の要素もありますが、それより人間に対する暖かさがあるのかなーと思いました。

 

 

アヴァロンの話や、タルコフスキーがやっとレンタルできるようになった話、(コンテンツと流通の話に繋がります)など、この映画からさらに話を広められそうですが、眠くなってきたので寝ます。

 

ということでまた次の機会に。