モードの帝王。映画『サン・ローラン』で学ぶファッション史
ファッション史に名を轟かせる巨人、イヴ・サンローラン。サンローランの死後、彼の人生を描いた映画はたくさん出ましたが、彼がファッション史(産業も)においてどんな功績を残したかが、とてもよくわかる点で、僕は今作をオススメします。
映画の紹介の前に、簡単にファッション業界の歴史を振り返りましょう。
パリの右岸左岸
ファッション業界の中心地がパリ、という事に異論はないでしょう。でも実はそのパリの中でも、時代によってメインどころが移ったんです。
【右岸・戦前10年代〜・オートクチュール】
一方、左岸にはガチガチな都市計画の名残はあまりありません。
サン・ローランは自身の名を冠したブランドの最初のお店をこの左岸(フランス語でリヴ・ゴーシュと言います)に構えます。
ちょうどその頃、タブーとされていた膝だしミニスカートを提案したクレージュや、
海の向こうのイギリスではモッズが出てきたり、ショートカットのツィッギーが出てきたりします。若者の風潮としては前の世代に対するカウンターという考えが模索されます。(モッズについて興味がある方は是非こちらの記事もどうぞ)
スモーキングジャケット(タキシード)
さて、前置きが長くなってしまいました。
この映画の舞台はちょうどモッズやツィッギーが登場したり、ファッション雑誌と写真技術が一気に普及した1960年代から1970年代のことです。この約10年の間にサンローランは後世に残る素晴らしいルックを提案しましたが、その中でも僕が面白いと思った物を2つご紹介。
ドイツ出身の写真家、ヘルムート・ニュートン撮影によるこのルックは今見てもかっこいい佇まいですね。映画の中ではこの写真の撮影をする現場が描かれています。当時、女性がスーツ・パンツ(または男性服)を「おしゃれ」として着るというのはかなり衝撃だったでしょう。シャネルもスーツスタイルを提案していましたが、それは顧客の依頼によって作られるオートクチュールの範疇の中。しかも流石にパンツスタイルに髪を撫で付けるいかにも男性的な要素はまだありません。そして当然の事ながら、ファッション雑誌や写真技術もそこまで普及していなかった時代なので、そこまで世の中に対しての影響力というはありませんでした。
一方、サンローランはプレタポルテ(ブランドによる提案)で、メディアを通し、(ファッション雑誌や写真技術の普及)市場に対して新しいスタイル(女性像)を「これぞ新しい美しさだ!」提案し確立したのが革新的ですね。
バレエ・リュス
2種類のスタイルを紹介しました。これ以外にも様々な新しいデザインを作り出してきたサンローランですが、ポイントは顧客の要望に応える(オートクチュール)だけでなく、顧客、いや、もっと言えば世の中(市場)が想像もしていなかった新たなスタイルを打ち出し続けた(プレタポルテ)のが彼の功績でしょう。メディアを通して、新しい女性像を提案し、「女性の味方」「女性の美しさを変えた」と言われているのがサン・ローランがモードの帝王と言われる所以でしょうね。
さて、この映画は人間関係のドロドロや(性描写多め)、プレタポルテとオートクチュールを両立する難しさ、 ライセンシングやフランチャイズをめぐる経営陣の攻防なども含め たドロドロも描いていてとても興味深いです。ライセンシングって何? と思った方は今年報道された国内アパレルの一大ニュースをご覧ください。
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