元パリコレブランド➡︎広告営業マンの「勝手に考察」

日系パリコレブランドにて販売・MD・バイイング等多岐にわたる業務を経験。現在は外資系広告代理店の営業マン。そんな僕がポップカルチャーからビジネスまで、気になった事を「勝手に考察」するブログ。

モードの帝王。映画『サン・ローラン』で学ぶファッション史

ファッション史に名を轟かせる巨人、イヴ・サンローラン。サンローランの死後、彼の人生を描いた映画はたくさん出ましたが、彼がファッション史(産業も)においてどんな功績を残したかが、とてもよくわかる点で、僕は今作をオススメします。

 
映画の紹介の前に、簡単にファッション業界の歴史を振り返りましょう。

パリの右岸左岸

 
ファッション業界の中心地がパリ、という事に異論はないでしょう。でも実はそのパリの中でも、時代によってメインどころが移ったんです。 
【右岸・戦前10年代〜・オートクチュール
シャネル、ディオールバレンシアガなどが活躍した20世紀前半。
顧客に合わせて服を作るオートクチュールは、ごく一部の上流階級のみに許された特権的なものでした。この頃、多くのブランドは伝統的な街並みのパリ右岸に店を構えました。上の地図で見ると、セーヌ川を挟んで北側の右岸には凱旋門シャンゼリゼオペラ座ルーヴル美術館、そしておしゃれインテリア雑誌などでよく見るアパルトマンといった所謂パリ、の街並みが残ります。(ナポレオン3世とオスマン知事によるパリの大改造の賜物ですね)
【左岸・戦後60年代〜・プレタポルテ
一方、左岸にはガチガチな都市計画の名残はあまりありません。
サン・ローランは自身の名を冠したブランドの最初のお店をこの左岸(フランス語でリヴ・ゴーシュと言います)に構えます。
ちょうどその頃、タブーとされていた膝だしミニスカートを提案したクレージュや、
海の向こうのイギリスではモッズが出てきたり、ショートカットのツィッギーが出てきたりします。若者の風潮としては前の世代に対するカウンターという考えが模索されます。(モッズについて興味がある方は是非こちらの記事もどうぞ)
同時期にファッション雑誌や広告などが普及し、シーズン毎に新しいデザインを考案するという仕組みが確立されます(コレクション)。サン・ローランのプレタポルテの少し前ですが、ほぼ同時期にロシアと国境を隔てたフィンランドからマリメッコというブランドも登場しますね。このブランドは完全にプレタポルテの先駆けとも言えるでしょう。(マリメッコに興味がある方は是非こちらの記事もどうぞ)

スモーキングジャケット(タキシード) 

さて、前置きが長くなってしまいました。
この映画の舞台はちょうどモッズやツィッギーが登場したり、ファッション雑誌と写真技術が一気に普及した1960年代から1970年代のことです。この約10年の間にサンローランは後世に残る素晴らしいルックを提案しましたが、その中でも僕が面白いと思った物を2つご紹介。

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ドイツ出身の写真家、ヘルムート・ニュートン撮影によるこのルックは今見てもかっこいい佇まいですね。映画の中ではこの写真の撮影をする現場が描かれています。当時、女性がスーツ・パンツ(または男性服)を「おしゃれ」として着るというのはかなり衝撃だったでしょう。シャネルもスーツスタイルを提案していましたが、それは顧客の依頼によって作られるオートクチュールの範疇の中。しかも流石にパンツスタイルに髪を撫で付けるいかにも男性的な要素はまだありません。そして当然の事ながら、ファッション雑誌や写真技術もそこまで普及していなかった時代なので、そこまで世の中に対しての影響力というはありませんでした。
一方、サンローランはプレタポルテ(ブランドによる提案)で、メディアを通し、(ファッション雑誌や写真技術の普及)市場に対して新しいスタイル(女性像)を「これぞ新しい美しさだ!」提案し確立したのが革新的ですね。 

バレエ・リュス

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映画のクライマックスを飾る1976-77年秋冬コレクション。極度のプレッシャーの中、お酒と薬物にはまり、堕落したサンローランは入院をしてしまいます。その入院生活から復帰後の最初のコレクションです。上記のスモーキングが、都会的で、男性的、ある種無機質なスタイルであるのに対して、このコレクションは一貫してロシアのバレエ団の衣装に見られるようなエスニック(民族的)なスタイルがベースにあります。ロシア、インド、モロッコなどの民族衣装のディテールを取り入れながらも、スカートとコートは共にボリュームのあるシルエットにすることで統一感がでますね。 
2種類のスタイルを紹介しました。これ以外にも様々な新しいデザインを作り出してきたサンローランですが、ポイントは顧客の要望に応える(オートクチュール)だけでなく、顧客、いや、もっと言えば世の中(市場)が想像もしていなかった新たなスタイルを打ち出し続けた(プレタポルテ)のが彼の功績でしょう。メディアを通して、新しい女性像を提案し、「女性の味方」「女性の美しさを変えた」と言われているのがサン・ローランがモードの帝王と言われる所以でしょうね。
 
さて、この映画は人間関係のドロドロや(性描写多め)、プレタポルテオートクチュールを両立する難しさ、ライセンシングやフランチャイズをめぐる経営陣の攻防なども含めたドロドロも描いていてとても興味深いです。ライセンシングって何?と思った方は今年報道された国内アパレルの一大ニュースをご覧ください。
 
 
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