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ブログを初めて早6年。平成生まれ、米国育ちの映画オタク。元パリコレブランド勤務で今はマーケターやってます。

◤地方創生と音楽イベント◢〜首都以外で成功する海外フェス〜

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地方創生とイベント

東京への一極集中が加速する昨今、地方を活性化させようという様々な取り組みが行われています。行政レベルでは地方創生、ふるさと納税、地域おこし協力隊等、国から自治体レベルまで一丸となって地方の過疎化・東京一極集中を是正しようと取り組んでいます。最近流行りのゆるキャラや地域限定のお菓子やキャラクターグッズなどもその一例ですね。 

民間も違った形で地方創生に貢献しています。地方に本社や大きな工場を有する企業はそれだけで地元の雇用創出に貢献してますし、野球やサッカーのチームが存在している地域はそれだけで大きな活力となります。また、官民での取り組みの中で最近よく見るのが地域での芸術祭などですね。有名なところでは瀬戸内国際トリエンナーレや越後妻有トリエンナーレなどがあります。美術館という箱だけで完結する鑑賞体験ではなく、街に点在する既存の学校や、工場、民家、そして何よりその地域特有の大自然を最大限に活用して、サイト・スペシフィック(そこにしかない)な作品や体験型作品を設置することで国内外のアート好きが集まる一大イベントとして注目が集まっています。 

そして、今回の本題となる音楽フェスもあります。国内だと苗場スキー場を拠点としたフジロックや、もう少し都会に近いですがサマソニなどは地方創生という言葉ができる前からありますね。こういったイベントを誘致できると、地元に大きな経済効果があるだけでなくその地域のイメージアップ(ブランディング)にも繋がりますね。さて、今回僕が参加してきたイベントは電子音楽の祭典の先駆けとして、本国カナダを始め欧米では大きな影響力を持つフェスとして認知されているMutekというフェスでした。

街の活性化・プラットホームとしてのフェス

11月初旬の土曜のお昼頃、日本科学未来館で開催されたmutekと言うモントリオール発のデジタルアートx音楽のフェスに参加してきました。昼間の部は正確には、ICDC=International Conference of Digital Creativity、訳して「デジタル・クリエイティビティに関する国際会議」、とでも良いましょうか。 VRAI、ロボットなど、テクノロジー関連のレクチャーが多い中、個人的に惹かれたテーマのディスカッションに参加してきました。題して、「人と都市を育てる、世界のデジタルアートフェスの秘密」というパネル・ディスカッション。昼間は入場無料だったので、ビールを持ってフェスに参戦する前に、大人しくメモ帳とペンを持って講義室に座りました。

 

女性キュレーターの活躍

司会進行役には音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏。

登壇者は以下の通り:

カナダ、モントリオールからのアラン・モンジェー。彼がmutekの生みの親として登壇。

スペイン、バルセロナ発のフェスsonarのキュレーター、アントニア・フォルゲラオランダ、ハーグ発today's artの代表のオロフ・ヴァン・ウィーデン

そしてロシア・サンクトペテルブルク発、gammaフェスのキュレーター、ナタリア・フクスf:id:michischili:20181103155138j:plain

というメンバー。ちなみに上記のうち、アントニアとナタリアは女性。日本でこういうデジタルアート関連のイベントがあると、だいたい登壇する人は男性が多い印象がありますが、そんなの関係ねぇという具合に英語でのディスカッションがスタート。 

プラットホーム・フェスの役割

それぞれの登壇者が自分達が携わっているフェスのPVを流しながらフェスの特徴を解説。印象的だったのはMutekを設立したアランの視点。

「映画、舞踊、文学など芸術の様々なジャンルにおいてフェスティバルがあるように、デジタルアート・音楽のフェスティバルもあっていいと思った。こういったフェスには、クリエイター・ミュージシャン達がプロフェッショナルとして活躍するためのプラットフォームとしての機能があると思っている。mutekを設立した当初は、北米にはこういったジャンルのフェスが少なく、こういうジャンル好きな人はほぼ皆ベルリンに行ってたが、今ではたくさんのクリエイターやアーティスト達がモントリオールに移住してきて街の活性化にも貢献できている。」と答えてました。

地道な資金集めと運営

その後司会のジェイが質問を投げかけます。「皆様の携わっているフェスの資金集めはどうされているのですか?」と。今回のフェスは4つとも大手企業による運営ではなく、独立した団体で運営されている様子。だいたい共通して、地方自治体や州政府の基金は欠かせないという回答が意外でした。アランは「2年目にケベック州が出してくれた10,000 CAD(日本円にしてざっくり100万円)がなければ今のmutekは存在しない。それくらい助かった」と。オロフは「フェスを始めた最初の数年は全く利益がなく、僕はバーで働いて生活費を稼いでいたよ」と。今では大企業(AmazonLVMHなど)もこれらのフェスに参加するほどになっているものの、始まった当初はとても小さく、一人一人のスタッフが手塩にかけて育ててきた様子がうかがえました。

地方と観光

また、地方を拠点とし、資金援助を貰うためには地元との繋がりも欠かせません。Mutekケベック州モントリオール市のイベントであるがカナダ・クリエーター・アーティスト枠も設けているそう。直近では、カナダ全土から300組以上のクリエーター・アーティストの応募があったとか。観光の側面も重要です。4つのフェスでも大体フェスの参加者の約半数は海外からくる観光客だそう。元々観光地ではあったバルセロナですが、「92年のバルセロナオリンピックの頃からバルセロナの街としての注目度が一気に上がって、94年にsonarがスタート。そこから爆発的にバルセロナの観光地化が進んだ印象があるわ」とアントニア。 

対立、そして逮捕も

オロフは数年前、todays artの開催数週間前に突然逮捕されたエピソードも紹介してくれました。「ハーグは国際裁判所や国際刑務所、その他国連機関も多く、「平和と正義の国際都市」としても知られています。でも、本当にそうなのか?平和が訪れる前は衝突があったはずだ。音楽や文化はそういった衝突も扱っていいはず。そこで「平和と正義の国際都市」ではなく、「衝突の国際都市」というキャンペーンを大々的に打った。そしたらテロを扇動してるという疑いをかけられてね。それでも他の地区の政治家の人達が釈放のために動いてくれて事なきを得たよ」と懐かしそうに話してくれました。こういった議論がきちんとできるのも、合理主義の精神と多様な価値観が集まる国家として有名なオランダらしいエピソードですね。 

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フェスと教育について

最後に再び司会のジェイから「教育という側面はフェスではどう担っていますか?」と質問。どのフェスでも教育には力を入れているようで、前述の通り若手クリエーターの登竜門になる要素もあれば、日中のプログラムではゲストスピーカーによる講演会も欠かせないそうです。sonarではゲストスピーカーに講演だけでなく、その後来場者も交えた様々なワークショップも開いてもらうようにし、現在では20以上のワークショップがあるそう。(ナノ・サテライトの作り方とか、かなりコアなワークショップもあるようです)

首都以外で成功しているフェス

なかなか普段聞けない、海外フェス運営の裏側をたっぷりと聞けた今回のパネルディスカッション。資金集めを行い、地元の理解を得て、地道にフェスを育て、大きくしてきたという点が印象的でした。正直、日本でのクリエイティブ業界や地域おこしでは、全体的に「プロ意識」が薄く、「好きな事をやれればそれでいい」という言説はよく見ます。そして残念ながらそういう考えで行われるフェスや芸術祭は、身内のお祭りに見えてしまうものも多い。そういった点ではアランの「フェスはアーティスト・クリエイターのためのプロフェッショナルのプラットフォーム」という発言は目から鱗でした。

モントリオールMutekバルセロナsonarハーグのtodays artサンクト・ペテルブルグのgamma、と見返してみると全て各国の首都ではなく、第2、第3の都市で花開いたフェスという共通点があります。地方創生または、東京一極集中の打開案の一つとして、今後はmutekは大阪とか他の都市でやっても面白いんじゃないかと思いました。(音楽とテクノロジーといえば静岡県浜松市にある某ヤ◯ハさんなんて真っ先にスポンサーとして名乗り出ても良さそうですね。)

また、すでに地方創生や地域おこしに携わっている人達は、「わかりやすいゆるキャラやイベントを作っておしまい」ではなく、クリエイターの為、観客の為という観点も盛り込んだ意識を持って頂けるとより面白くなるんじゃないかと思います。

Mutekそのものは?

そして夕方からは様々なアーティストの演奏や、企業による機材の紹介ブース、脳波を使って音楽を作るワークショップなどを見て回りました。その中でも特に印象的だったのが、ダンサーの梅田宏明のインスタレーション。今回は本人のダンスはなく、科学未来館プラネタリウム内にこの映像を投影したバージョン。シンプルな線や点といった要素を使いながらも、視線がうまく誘導され音楽とのリズムもとてもよく取れていました。


Intensional Particle - extract

そして夜はデトロイト・テクノの重鎮、ジェフ・ミルズの圧倒的なパフォーマンスで締めくくりました。mutek jpはまだ今年で3回目。今後も期待です。最後に、映像がべらぼうにかっこよかったロシアのフェス、gammaPVを載せておきます。


Gamma Festival 2017 - Official Aftermovie 

 

ちなみに欧米の音楽・テクノロジー業界のマーケティングに興味がある方は、良かったらこちらのNetflixのドキュメンタリーもオススメです。ヒップホップって実は地方創生とは少しずれますが、地元を大切にし起業家精神もある面白いカルチャーなので、合わせて読んで頂けるとより面白いと思います!

michischili.hatenablog.com

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