ポップカルチャー・ガイドマップ

平成生まれ、米国育ち。美術史専攻の洋服屋さんが解説するポップカルチャー/ ファッション、音楽、映画(たまに建築)

Defiant Ones『ディファイアント・ワンズ』〜後編: ヒップホップと起業家精神〜

 

前回に引き続き、Netflixで配信中のドキュメンタリー、『ディファイアント・ワンズ』の紹介です。pt.2の今回はヒップホップと起業家精神について、そして最後には僕の考察も含まれてます。

 

 

 

 

ジミーの手腕

さて、インタースコープ・レコードを設立したジミーですが、ダークで過激なパフォーマンスで一部の若者の熱狂的な支持を得ていたナイン・インチ・ネイルズを見つけます。

当時レズナーは所属していたレーベルと馬が合わず(上層部が作品の中身に過剰に干渉してきたようです)、移籍を検討していましたが、契約の関係上すぐに移籍ができない。

そこでジミーは、契約関連のゴタゴタは全部俺が引き受けるから安心してな、という具合に交渉を始めます。

といっても、この交渉が一筋縄ではいかない。ジミーはレズナーが所属していた元レーベルの社長に1年間にわたり、毎朝電話をかけ何とか説得したようです。

その後に出したナイン・インチ・ネイルズの代表作と言われるアルバムがこちらです。

 

Downward Spiral

Downward Spiral

 

 

これだけには留まりません。ジミーは、プロデューサーをプロデュースする、と明言。ドレーが他のミュージシャンを発掘したのと同じように、レズナーにも他のミュージシャンを発掘しプロデュースする権限を与えていました。そこでレズナーが見つけたのがこれまた過激なメイクとパフォーマンスで有名な、Marilyn Manson マリリン・マンソン

 

PORTRAIT OF AN AMERICAN F

PORTRAIT OF AN AMERICAN F

 

 

こうして、90年代を代表するミュージシャン達がジャンルや世代を超えて同じレーベルに所属しました。流石ジミー。現場が良い仕事をしやすいように根回しをして責任取れる大人ってカッコいい。

 

 

インターネットとBeats設立

ジミーの先見の明は様々なミュージシャン達に活躍の場を与えましたが、彼はその先も見据えてました。

90年代後半になりインターネットが普及し、Napster(音楽無料ダウンロードのサービスの先駆け)が登場すると、いち早く危機を察知。

このままでは従来のCDを売るビジネスは成り立たなくなる、と。

 

海賊版撲滅に奔走したようですが、それだけではキリがない。そんな中ある人物の話を耳にします。それがApple創業者のスティーブ・ジョブズでした。数年後、AppleiPodを発表。ジミーはすかさずこのデバイスの可能性を見抜きました。

 

そして2008年Beatsをドレーと共同で設立。この設立した時のエピソードも天才らしさがあるのですがそれは是非ドキュメンタリー本編をご覧ください。

 

 

ということで、イヤホン&ヘッドホン市場で高級かつ、洗練された都会らしいデザインの商品を売るというビジネスを始めた2人。この時点で新たな需要を作り出したわけですが、その後のプロモーションもとても上手かった。

元々音楽業界に幅広く顔が効くジミーは、様々なミュージシャンやレコード会社の重鎮などにヘッドホンを付けてもらい自らケータイで写真を撮り、ブランドイメージとして拡散。

 

更にはオリンピックやNFLの選手達にも配布。オリンピックに至っては国別にデザインを変更したものを配ったようですが、正式なスポンサーでは無かった為に、選手達はBeatsの着用を禁止されました。


NFL Bans Beats By Dre Headphones After Deal With Bose

 

何を隠そう、これもジミー達の狙っていた炎上マーケティングでした。この禁止令そのものがニュースになり、ますます若者達の注目を浴びました。NWAやエミネムマリリン・マンソンなど、過激な言動をするミュージシャン達のほうがかえって若者の心を掴むという事を知っていたのでしょう。

流石です。

 

そしてpt.1冒頭のニュースに戻ります。元々ブランド力もあり、若者達に支持されていたBeatsをAppleが買収。Appleサイドとしてこの買収は、ジミーやドレーの知恵や人脈を買った事にもなりました。

配信にまだ抵抗を持つミュージシャン達が多かった中、itunesで大物ミュージシャン達に作品を配信するように仕向けたのはジミーやドレーだったようです。

今ではitunesよりApple musicが主流になりつつありますが、ダウンロードからストリーミングに移行させた陰の立役者もジミーのようです。

 

Defiant Onesディファイアント・ワンズ

 

このドキュメンタリーの原題Defiant Onesを直訳すると挑戦者達、反抗者達、大胆な者という意味になります。これでもニュアンスは伝わるんですが、最近見た米国の某スポーツメーカーの国内向けCMで使われていた

「身の程知らず」

というコピーを思い出しました。


ナイキ 身の程知らず

 

インタビューでもレズナーが「ジミーはマーケティングの天才だ。そして恥知らずだ。とにかく前に進む」と言ってたのを彷彿とさせます。

ジミーとドレーは成功を収めますが、それでおしまいではありません。何よりも僕の心を掴んだのはこの2人の教育への投資でした。

 

2人とも大学を出てないようですが、テクノロジーと音楽の両方がわかる奴が少ない、との事で南カリフォルニア大学に2人の名前を冠したアイオヴォン&ヤングアカデミーを設立する為にお金を寄付。

ちなみにこの大学のコース(学部)は既に設立され、今年の5月には同学部の初の卒業式が開催されるようです。そしてその卒業式にはブラック・アイド・ピーズのメンバー、ウィル・アイ・アムがスピーチをするようです。

variety.com

 

ブラック・アイド・ピーズもインタースコープからアルバムを出してます。)

 

更に、全米でも最も治安の悪いと言われるカリフォルニア州コンプトン出身のドレーは、100年近く学校が新設されていなかった地元の再開発にも多大なる寄付をしました。学校を建て替えるだけでなく、街のシンボルとなる音楽ホールの新設を含む一大プロジェクトです。

ヒップホップと起業家精神

と、ざっとドキュメンタリーの全体の流れを要約してしまいましたが、いかがでしたか?

元々ヒップホップ好きだった自分は改めて気づいたのですが、ヒップホップという文化は起業家精神が旺盛。若者に対するネガティブな影響も、全くないとは言えない文化ですが、それでも目指すところはポジティブで魅力的に見えます。

ヒップホップと起業についてはこんな記事もありますね。

 

 

 http://www.field-mgmt.com/topics/pdf/topics/140401_wired_vol11.pdf

 

 

college.nikkei.co.jp

更にアメリカでは成功したアフリカン・アメリカンに良く見られる、教育への投資というノーブレス・オブリージュの要素も魅力的です。

 

貧困や差別の中でも自分を奮い立たせ、何も無いところから成功を掴み、そこで稼いだお金を次世代にきちんと回す。

ヒップホップ文化自体がそういう成功モデルを奨励している。もちろんこれはアメリカという起業家精神旺盛の国だからこそ成り立つのかもしれません。

一概に比較して優劣はつけられないですが、日本では稼ぐ事=悪になってしまっている雰囲気くらいは変えて行った方が未来が少しは明るくなるんじゃないか、と思いました。

 

 

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いつか自分もジミーのように、プロデューサーのプロデューサーのような大人になりたいなあ、と思いました。