映画とドラマとファッションと

ブログを初めて早6年。平成生まれ、米国育ちの映画オタク。元パリコレブランド勤務で今はマーケターやってます。

『たかが世界の終わり』

本日ご紹介する映画は、洋服度控え目になりますが、間違いなくファッション誌等でも取り上げられるであろう若き天才が撮った、おしゃれな大傑作です。

 
グザビエ・ドラン監督ー2017年、2月公開。
 
 
今世界的にも最も勢いがあり、最新作が出る度に話題になる映画監督挙げるとしたら、このグザビエ・ドランは間違いなくトップ5に入る監督です。

オープニングのグルーヴ

 
カナダのモントリオール出身、生まれは僕と同じ1989年!
同じモントリオール(カナダの中のフランス語圏)の出身という事では、ドニ・ヴィルヌーヴ監督もいますが、
今回紹介するグザビエ・ドランはもっと艶っぽい映画を撮ります。
 
27歳という若さにも関わらず、ドランは6作目にあたる今作を含めて、3作連続でカンヌ国際映画祭で賞を取っています。(今作はおしくもパルムドールは逃しましたが、その次のグランプリでした。)
 
 
映画の冒頭、製作会社などの企業ロゴがスクリーンに映し出されるタイミングから、微かに映画内の音が「漏れ出し」、音が鮮明になる頃に映像も鮮明になってスクリーンに映し出される。
ここでまず、僕は引き込まれました。なかなか面白いことやるな、と。
 
 
数分の後に画面全体がボケ、タイトルが表示されますが、このタイミングで挿入歌がスタート。


Home is where it Hurts - Juste la fin du monde

ボイスパーカッションと、ピアノによって刻まれるリズムに合わせて歌われる唄が、またなんとも言えない哀愁を感じさせます。

 

 

音がクリアになると、映像もだんだんとピントが合い、本編スタート。
しかし、良く見ると、顔か手をクローズ・アップした画ばかりが数分間続きます。
引きの画(一応役者がいる場所がなんとなく推測できます)がほとんどなく、背景は常にボケているような撮り方で、胸から上しかほとんど映されません。
そんなにアップの画ばかり続くと窮屈になりそうですが、音楽と編集のリズムがとても良くおしゃれなPVでも見ているかのような気分になります。なのに同時にこれはまぎれもなく「映画」だ!とも思えました。なんちゅうセンスをしてるんだ、恐るべしグザビエ・ドラン。
 

あらすじと役者紹介 

 
さて、主人公ルイは有名な劇作家。
モントリオールの田舎町の実家を出てから12年、疎遠だった家族に再び会いに行く決心をします。
自分の死が迫っている事を伝えに。
 
ルイの役は、このブログでも紹介した映画サン・ローランで主演を務めたギャスパー・ウリエル
サン・ローランでも今作でもゲイの役を演じてますが、本人はストレートみたいです。

 

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どちらにしろ、美形であることには変わりないですね。
(ちなみに監督のグザビエ・ドラン自身もゲイであり、過去作でも繰り返しゲイとしての自身の苦悩を投影した男性を描いています。)
主演にも関わらず、恐らく5人の中で一番セリフが少ないです。
 
 
 
久々の再会の為、豪華な昼食を用意し、おめかしをする母親。

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ルイとはほとんど幼い頃の記憶がなく、憧れのまなざしで待つ妹、シュザンヌ。

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再会してからもずっとぶっきらぼうで、むしろ場を乱すことしかしない長男、アントワーヌ。
大御所のヴァンサン・カッセルがとても重要な役を演じてますね。
 
と、その妻、カトリーヌを演じるのはマリオン・コーティヤール。
前半、カトリーヌはルイと会話をすることが多いですが、2人の心の揺らぎが「目」で表現されています。
流石ですね。
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人物描写

登場人物はほとんどこの5人しかないこの映画ですが、とても深みのある人物描写がされています。 
 
妹と母親のはしゃぎっぷりとは対照的に、意地悪な突っ込みばかりするアントワーヌ。
なんとか場を取り繋ごうとするカトリーヌ。
どのタイミングで切り出そうか、と様子をうかがうルイ。
5人のそれぞれの想いがぶつかり、空回りし、むなしく時間が過ぎていく。
 
この会話劇はアップの画がほとんどで、互いの気持ちがすれ違う様があたかも目の前で起こってるようなリズムで立ち現れます。生演劇のような臨場感とも言えるかもしれないですね。
 
そして時折、BGMのような音量で流れていた音楽が、音量も上がり、背景から前面に出てくると、突如物語がフラッシュバックをしたり、と本当に音楽の使い方がうまいな、と思うことがしばしば。フラッシュバックの映像は、写真家ライアン・マッギンレーの撮る画に似てる気がしました。
 
 
果たしてルイは自分の死をきちんと伝えられるのか。
それともこのまま家族内でぶつかりあったまま、世界が終ってしまうのか。
この映画では、人間の声のない叫びが描かれています。
「どうしてこうなってしまったんだ!」と。
 
 
2016年に見た映画では僕の中では間違いなくベストでした。
ドランよ、同い年でこれやられたら悔しいわ。 
 
 
余談)エンドロールのこの曲が素晴らしくて調べたらモービーだったんですね。エミネムのせいでモービーをちょっと小馬鹿にする風潮が一時期アメリカではあって、僕もその影響でちゃんとモービーを聞いてなかったんですが、この曲は素晴らしいです。
ブルース、とはまさにこの映画のテーマでもあるな、と。