【映画37】ゴーン・ガール
セブン、ファイトクラブで有名なデビッド・フィンチャーによる最新作。
ミステリー、スリラーとして始まる映画ですが、ミステリー・スリラーの仮面をかぶったある種の神話的な話として見た方が正しいでしょう。
一言でいうと超スタイリッシュなブラックコメディです。
そしてロザムンド・パイクの演技が神がかってる。
【あらすじ】
ぼけっとした演技が得意なベン・アフレック(というか演技があまりうまくないからぼけっとした役が合う)はニューヨークで男性誌のライターをやっていた。
あるときパーティーで才色兼備でセレブなエイミー(ロザムンド・パイクが演じてる)と出会い2人は結婚する。
田舎育ちながらも素朴な人柄のニックと、都会育ちでとても洗練されていて教養のあるエイミーの2人はとても仲が良い様に思われた。結婚5周年の日の朝、エイミーが失踪してしまうまでは。
エイミーがいたはずの台所には拭き取られた大量の血痕。
部屋は争った形跡があり、朝から飲んでいてアリバイがおかしなニックが疑われ、
そしてついには失踪事件がワイドショーに取り上げられ、全米を巻き込んだ大騒動になる。
エイミーは帰ってくるのか。
それとも。。
【ネタバレしない程度の感想】
好きなフィンチャーが帰ってきた! 見終わったあと、そう思えて良かったです。
正直ミステリ的な部分は先が読めます。そしてそこはそんなに重要ではないんです。
ワンシーン、ワンカットそれぞれにどこか怪しさを感じるようなズレをさりげなく入れていて観客を引き込む。以下細かいけど印象的な部分:
・冒頭のバーでニックがニックの妹とお酒を飲むシーンで何故かグラスがアップになる
・エイミーが居なくなった現場には飼い猫がいた。劇中何度かその猫の餌の話も出てくる
・あとは細かくて覚えてないけど、字幕では笑えないようなアメリカンジョーク(シャツはパンツにインしないでさりげなく出すのよ、といったどうでも良い台詞とか)がちらほら出てきてクスッと笑わされる。
これらの本当に細かくて数秒にしか満たないような演出が積み重なって、結果的に映画全体がずれてくんです。ずれていって、全てのシーンが怪しげで何かの伏線のように感じられる。結果、フィンチャーが得意としてきた事(脚本よりも映像で語る監督)をよりさりげなく、でもより効果的にまとめあげた感じです。
【ネタバレ注意】
ワイドショーによるお祭り騒ぎ、
夫婦のあり方、
失業による経済的困窮、
といったかなりリアルな描写が描かれていて、そことうまく非日常的なエイミー失踪事件が絡む。
で、要するこの映画はエイミーという女性の狂気を描いた話で、
フィンチャーらしい暴力性がまた今回もすげーな、男尊女卑度半端ない、と思ったら、
原作は女性が書いてたんですね。
そんな話を彼女としてたらとある雑誌で女優の蒼井優さんが
「男性が描く女は女神になり、女性が描く女はグロテスクになる」と言ってたことを聞いてなんとなく納得。
古今東西、神話の世界では女性が女神であり、グロテスクでもあるような描き方がされてますが、この映画はその現代アップデート版とも言える気がします。
そう、タイトルはゴーン・ワイフではなくて、ゴーン・ガールというのも重要かも知れません。
ロザムンド・パイクのアカデミー主演女優賞受賞なるか。
そしてフィンチャーのこの力作をきっかけに、今年はスリラーの名作をたくさん撮ったヒッチコックを何本か見てみようかな、と思いました。