元パリコレブランド➡︎広告営業マンの「勝手に考察」

日系パリコレブランドにて販売・MD・バイイング等多岐にわたる業務を経験。現在は外資系広告代理店の営業マン。そんな僕がポップカルチャーからビジネスまで、気になった事を「勝手に考察」するブログ。

ショッピングは「趣味」かー美容と万博と時々百貨店。マーケティング事始め

ショッピングは趣味か

「私の趣味はショッピングです。宜しく」

と、彼女は言いマイクを次の人に渡した。大学入学後の、新入生オリエンテーション・キャンプへの道中の話だ。学生と教員が何グループかに分かれてバスにのり、1人ずつ自己紹介をしていた。僕も含め、一通りの学生達が自己紹介を終えた。すると、当時学部長で宗教学を専門としていたジョージ・ルーカスにちょっとだけ似てる教授がマイクを持ち、こう言った。

「皆、自己紹介ありがとう。色々な人が一緒の学部でこれから学べるのが楽しみだね。ところで、ショッピングが趣味、という人が何人かいたけどあれはどういう意味だろうね。音楽とか、映画とか、スポーツが好きってのはわかるけどショッピングって趣味って言えるのかな?まぁ、時代が変わってるって事なのかもねぇ」

マーケティングを学び始めて

何を隠そう、実は僕自身も当時はこの教授と同じ意見だった。映画や音楽、哲学に興味を持っていた当時の自分からしてもショッピングは趣味とは言えないと思っていた。学部でとる授業ももっぱら人文学ばかり。経済関連の授業には一切興味を持たず、ある意味世間のことも「経済」のこともちょっと舐めていた。もう10年も前の話だ。社会人になり、一人暮らしを始め仕事につくと、自分がいかに世間知らずだったかを思い知った。お給料を貰って生きていくのも簡単ではない。

時も流れ、最初に勤めていたファッション・ブランドの仕事を辞め、昨年末からマーケティングの仕事を始めた。周りでマーケティングや広告関連の仕事をしていた近い友人達には、僕の好奇心旺盛な部分はマーケターに向いているよ、と言われていた。だが前述の通り、大学ではマーケティングの授業はおろか、経済系の授業はまともにとっていなかった自分は何がなんだかわからず、転職のタイミングで初めてコトラーを読んだくらいだった。外資系の広告代理店(正確には、英語ではマーケティング・エージェンシーという為、いわゆるテレビCMをバンバン作る、という感じとは違う)で働き始め、今は仕事をしながら自分でもたくさんマーケティング関連の本を読み込んでいる最中だ。この作業はいわば、マーケティングという言語を脳内にインストールをしている段階とも言える。そしてこのブログは、マーケティングの本や資料を読み漁っている中での自分なりの気づきを整理しシェアする為に書いているとも言える。ゆくゆくは、自分が元々強みとしていたカルチャー関連の知識✖︎マーケティングの掛け算で新しい発見を発信して行きたいが、まずは冒頭の話に戻ろう。そう、10年を経て「趣味はショッピング」という彼女の発言の意味がやっと理解できたということをシェアしたい。

万博と百貨店

僕たちが街中のスーパーや、ファッション・ビル、百貨店などで当たり前にする「ショッピング」の起源は19世紀後半〜20世紀前半の話だ。意外と歴史的には短い。ロンドン、パリ、ニューヨークを中心に人とお金が集まった当時は「ショッピング」は上流階級の人達だけに許された特権だった。そう、この頃僕たちが知っている百貨店という物の土台ができたのだ。重厚な建物、季節ごとに変わる派手なショーウィンドウ、高級ホテルにも近いようなスタッフの佇まい、ガラスケース内に並べられた色とりどりの美容品、商品や客層によって仕切られるフロア構成、そして何よりも世界中から集められた珍しい品々など。これらは基本的は世界初の万博を行ったロンドン万博とそれに続いたパリ万博の影響を受けている。当時、世界中に植民地をもち帝国として圧倒的な力を持っていたイギリスとフランスは自らの力の強さを見せつける為に国を挙げて打った一大イベントが万博だった。

美容業界の誕生

この百貨店全盛期の時代に、今の美容業界の土台がパリで生まれた。リンメル、ゲラン、コティ等が香水ビジネスを始めたのが美容業界の起源と言われている。香水のボトルはバカラや、ルネ・ラリックによる1つの工芸品であった。また、シャネルやディオールオートクチュールのデザイナーとして活躍したのもこの頃で、まだまだ一部富裕層にしか手は出せなかったが、香水や服が「買える芸術品」となった。僕たちが今も知っている老舗美容ブランドやファッション・ブランドの多くはこのころから続くブランドである。注1)注2)

フォードと中流階級

一方、ヨーロッパから海を挟んだ大陸アメリカでは、フォードが自動車の量産を始めていた。富裕層相手の手作りの自動車よりも、安価で大量に作れる自動車がアメリカで出回っていた。このころから、"buy now pay later"「今買って支払いは後で」という月賦販売の制度もアメリカで広まった。(20年代当時は自動車の60%が月賦で買われていたそう)

ショッピングの娯楽化 

ショッピングモールの原型ができたのも1920年アメリカ、と言われている。郊外に位置し、遊園地とも見紛うような世界観の演出、車が入れず歩行者が歩くことを前提とした設計などが人々の心を掴んだ。ヨーロッパで建前上の階級制度が崩れ、アメリカでは本格的な中流階級の勃興が始まった時、「ショッピング」そのものが娯楽になり始めた。

ショッピングとマーケティング

冒頭の「ショッピングは趣味か」という問いに戻ろう。ショッピングが娯楽である以上、映画や音楽といった娯楽同様、それらを楽しむ行為が「趣味」であることは否定できない。むしろ、その「趣味」を低俗などと侮ってる場合ではなく、その「趣味」を巡って途轍もない頭脳が世界中で使われている。その頭脳がマーケティングだ。マーケティングとは消費者理解の知見だ。作り手のこだわりだけでなく、消費者が何を求めているか、どうしたら企業は消費者を手助けできるかを理解し、手助けのためにどう実行するか、そして最終的にはどうすれば企業の売り上げを伸ばせるか。マーケティングとは商品を作った後の宣伝活動だけでもなく、広告だけでもなれば、市場調査だけでもないということがやっとわかってきた。(これらはあくまでも手段)

要するに、マーケティングとは10年前には理解できなかった「趣味はショッピングです」という人の感情を理解できなければ務まらない仕事でもあるし、ある意味終わりも正解もない常に改善を求めていく必要がある作業でもある。陳腐な言い方であるが、「左脳的なロジックと、右脳的なマジック」が両輪で回らないと前に進まないという意味では物事を幅広い視野でみる必要もある。かといって、マーケターはエンジニアやデザイナーといった具体的な手に職をもっている訳ではない。マーケターは「何にでも首を突っ込むくせに、1人じゃ何もできない」という側面もある。それでも「趣味はショッピングです」を理解できるプロは特に日本ではこれからますます必要とされている、と現場の第一線で活躍するマーケター達が口を揃えて言っている。(元USJCMO森岡毅さんや元マクドナルドCMOの足立光さん等)低価格高品質、スペックやこだわり偏重の商品作り、マス広告偏重のコミュニケーションなどと日本の大企業の多くは人口が爆発的に増え、勝手に消費者が物を欲してくれた時代の体質から抜け出せないでいる。これからの時代は「物と情報は多いのに、時間は足りない」という時代になる。すると、消費者と企業を結ぶマーケティング思考がより重要になる、と。

このブログでは、そんなマーケティングについて元・ど素人だった僕が少しずつ学んだ事を書いてシェアをしていきたい。マーケティングに興味がある人たちの為になれば本望です。明けましておめでとうございます。

 

注1)オートクチュールからプレタポルテのファッションの歴史に興味がある方は僕のこちらの記事も是非どうぞ!

michischili.hatenablog.com

注2)美容・化粧品業界のみならず、マーケティングに少しでも興味がある方にオススメのビジネス歴史書。骨太な読み応えですが、フランスやアメリカや日本も含めた多くの美容ブランド設立の背景と創業者の人となりも描かれていてとても面白いです。

ビューティビジネス―「美」のイメージが市場をつくる

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ロンドンの有名百貨店セルフリッジを作った、ミスターセルフリッジのドラマ。Netflixで配信してたのですが、今は残念ながらDVDのみのようです。ミスターセルフリッジの破天荒な起業家っぷりと、百貨店というシステムが出来上がるのを映像で追体験できる貴重なドラマですので是非。

Mr Selfridge - Series 1-3 [DVD][PAL][英国輸入盤]

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正月、ということで初詣に行かれた方も多いと思いますが、それも実は鉄道会社によるマーケティング企画ということは僕の過去のブログで紹介してます。

michischili.hatenablog.com

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