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ブログを初めて早6年。平成生まれ、米国育ちの映画オタク。元パリコレブランド勤務で今はマーケターやってます。

アメリカ映画なのにアイリッシュ!?『スリービルボード』の耽美な世界

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監督と脚本を手掛けたマーティン・マクドナーアイルランド系イギリス人。アメリカ映画なのに随所にアイリッシュ要素と、耽美な要素が見られました。

夏の名残のバラと耽美なオープニング

映画冒頭の約3分、アメリカ合衆国ミズーリ州エビングの風景を写しながら流れる『夏の名残のばら』はアイルランドの民謡。後にクラシック曲や、ポップ・ミュージックなど様々な形式に引用されてますが、この映画で使われたのはオペラ用に編曲されたもの。時代や主題が違えど、風景とこのオペラ版の曲の組み合わせによって、この3分間はヴィスコンティのような耽美なトーンで進んでいきました。

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主人公ミルドレッドが3つの看板を設置した後、彼女の自宅に地元の教会の神父が尋ねてきます。曰く、殺害された娘さんの件については皆あなたの味方だが、あの看板はやりすぎだ、と。すかさずミルドレッドはカトリック教会を揺るがすスキャンダル、神父による子供の性的虐待について言及。あなたが仮に加担していなかったとしても同じ教会の一員であるだけで、私にとっては共犯者よというニュアンスの事を吐き捨てます。

(ちなみにこの事件は『スポットライト 世紀のスクープ』という2016年アカデミー賞作品賞を授賞した映画で描かれています。ボストンのカトリック教会における虐待について徹底的に調べたジャーナリスト達の話ですが、ボストンという街に最も多いのがアイルランド系の移民なのです。更にアイルランド系の多くはカトリック教徒でもあります。 

また映画の中盤でとある夫婦が、

「それはシェイクスピアの引用か?」「いえ、オスカー・ワイルドよ」

というやりとりをしてました。そしてオスカー・ワイルドアイルランドを代表する作家・詩人です。耽美主義を代表する作家、としても知られていますね。

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さて、この映画はアイルランド系イギリス人というある種の部外者だからこそ描けた現代アメリカの暗部、とも捉えられます。ただ、個人的には監督が目指したかったテイストがやや中途半端に見えてしまいました。冒頭の3分は前述の通り、耽美な雰囲気をまとった至福の映画時間が流れました。このテイストのまま進めば大傑作になったかもしれないのに、と、思いつつ登場人物が出てからはヘッドショットを多用した、ややバタバタしたカメラワークに。役者の演技合戦が見られたのは良かったものの、「映画」ならではの撮影と編集のリズムの耽美な要素はこれ以降はあまり観られませんでした。

 

とは言え、タイムリーな話題を扱い、さすが劇作家出身と思わせる脚本の巧さは絶妙でした。監督の次回作も楽しみですね。

 ちなみに同年に公開され、同じくアメリカの田舎を舞台し、殺人事件と人種の問題を扱った物語に、『ウィンド・リバー』という傑作もあります。

興味がある方は是非見比べてみてください!michischili.hatenablog.com

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