【映画33】ムーンライズ・キングダム〜ウェス・アンダーソンとクールベ〜
【あらすじ】
1960年代、まだテレビが本格的に普及してなく、音楽を聞くのもレコードが主流だった時代の小さな島。
この島に住む小太り眼鏡少年のサムは嫌われ者だった。孤児なので里親と過ごしていたが、ボーイスカウトのキャンプに預けられてしまう。ボーイスカウトには大人が一人だけいたが、なよなよしく、あまり頼りにならない。サムはこの環境でも周りの少年となじめずにいた。
地元の教会でノアの箱船を題材にした演劇が行われていた。サムは客席にいたはずが、席を立ち、勝手に楽屋に忍び込む。そこでカラスを演じていたスージーに出会い一目惚れする。彼女もサム同様、「カラス」という嫌われ者であった。
スージーは頼りない父親、島で唯一の警官と不倫をする母親、そして三つ子のような弟3人の大家族でくらしていた。元々ギクシャクしていた家族だったが、「問題児の扱い方」のような本を親が持っていたのを発見してからスージーと家族の溝は一気に深まる。
そんな嫌われ者同士のサムとスージーが文通を交わし、駆け落ちの計画をたてる。窮屈で、退屈で、頼りない大人の世界から逃げ出そう。記録的な嵐が迫っていることもいざ知らず 小さな島で、小さな大人二人による大きな冒険が始まる。
大人でもない、子供でもない微妙な年頃の人の心の揺らぎを描く傑作。
【感想】
グランドブダペストホテルではまったウェス・アンダーソンの映画。アンダーソンらしい、紙芝居のような演出から物語が始まる。
この人はドーリー撮影(レールの上をカメラが動きがら撮影する方法。ズームとは違って、実際に人間の体が動いて視点が変わる感覚に近い)が多く、それがファンタジーの世界へ引き込むのに一役買っている。
全体としてはダークグレーと茶色の色彩の印象が強い画だった。
寂れた島の、寂れた社会と、長い冬に向けて褐色の葉を落とし、天然のカーペットを作る島の自然がとても綺麗に描写されていた。
この画がベースにあって、さらに思春期の少年少女の恋愛を描いていて、この二人の不器用なキャラクターがまたよい。
声変わりもしていないのに、気持ちだけは一人前のサム。見た目とは裏腹にアウトドアのスキルはボーイスカウトの中でも一番。
読書が好きで長女らしくそれなりにしっかりしているスージー。ただし、大人になろうとしているのが裏目にでて、歳不相応なエメラルドのアイラインを引いて完全に失敗してしまっている。
そしてこの二人の周りにいるはずの「大人」は皆、情けなく、頼りない。
ただし、その演出がまたよい。
大人も子供もこの島の住民は皆どこかに問題を抱えている。
そしてその誰もが抱える問題、もしくは不器用な部分はとてもフィクションとは思えないようなリアリティがある。人間の不器用な部分を丁寧に描くからこそ、キャラクター全員が生き生きとしている。「こういう奴、いるいる」というキャラクターが一人や二人はいると思う。
名もなき人々の日常を描いたクールベの絵画に似ている。