映画とドラマとファッションと

ブログを初めて早6年。平成生まれ、米国育ちの映画オタク。元パリコレブランド勤務で今はマーケターやってます。

音楽だけじゃない!『ラ・ラ・ランド』は開襟シャツとスペクテイター・シューズも魅力的!

はじめに

映画『ララランド』のファッションについて。前編は映画の色使いについてでしたが、後編はライアン・ゴズリング演じる、セブ役の服装について解説します! 

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まず、このセブのシャツを見てみましょう。開襟(またはオープンカラーと呼びます)のシャツを普段から着て、髪をキチッと固めるスタイル、カッコいいですね。実はこういうスタイル、メンズファッション誌Popeyeの4月号でも紹介されてます。

そもそも開襟シャツとは?

まず開襟シャツの特徴は、名前の通り襟が開いてる点があげられます。襟が開くだけでなく、襟が倒れた状態になりますね。当然ですが、ネクタイを締めるのには適していません。

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 開襟シャツのもう1つの特徴ですが、裾がスパッと横に切られています。

 

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開襟シャツ

シャツの起源

本来、シャツはパンツの中にしまう設定で裾が長く作られています。
シャツは元々ヨーロッパの貴族が着る肌着でした。 

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17世紀のヨーロッパの男性貴族の肌着(シャツの原型)
 日本人ではあまり見かけないですが、未だに欧米の人はシャツを直接素肌に着る人、多いです。 
なので、欧米の上流階級の人はスーツを脱いでシャツ1枚になることはあまりないです。
本来、シャツの上にはベストを着て、その上に上着を着るという決まりがあります。
(ベスト:ヴェスト→ウェーイスト・コートwaist coatが転じた、という説もあり。)

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これはダブル仕立てのウエスト・コートですね。
 上着+ベスト+シャツの組み合わせは、重たいだけでなく、夏には暑くて着れないですよね。
こうして、メンズファッションはベストを簡略化し(あえて今でもベストをきちんと着る人もいますが)、シャツも肌着要素が減り、今に至ります。 
開襟シャツは、こういったシャツの進化系の一種ですね。
ボーリングシャツやアロハシャツは最も有名な部類の開襟シャツに入ります。

スペクテイター・シューズ〜または、コンビ・シューズ〜

 『ララランド』のファッション、続けて足元も見て見ましょう。

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最初のパーティーのあと、2人がタップダンスをするシーンがありますがわざわざミアはヒールから別の靴に履き替えてますね。 これ、タップダンス用のタップシューズなんですが、セブは履き替えていません。ミュージカルとしては、タップシューズに履き替えさせて踊るというのはアリですが、タップシューズは普段履きはしないのですね。セブが履いてるのはスペクテイターシューズです。

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 コンビシューズ、ツートンシューズとも言われますが、2色使いの靴の起源はスペクテイターシューズと言われています。 スペクテイター(spectator)とは、観戦者という意味がありますが、これ、元々はスポーツや競馬を観戦する人が履いてたんです。1920年代頃、欧米の貴族や上流階級の人達はスポーツ観戦や競馬を見に行く際に適したお洒落をしました。競技場や競馬場は当時は重要な社交の場だったようです。まだまだスニーカーなんてない時代、少しでも革靴をスポーティに見せる為、2色使いにしよう、と生まれたのがこの靴です。

ジャズ・ファッション〜フランク・シナトラの場合〜

さて、開襟シャツにスペクテイターシューズというちょっと一癖ある服を着てるセブ。
忘れてはならないのが、彼はジャズミュージシャンとういうこと。しかも頑固者として描かれていて、ジャズ全盛期の頃が好きで好きで仕方ない人として描かれてる。実はこの組み合わせ、1940年代〜1950年代のビバップからモードジャズなどがジャズ全盛期の頃の服装なんです。

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フランク・シナトラ-1943年の写真

ジャズ歌手、ミュージカル俳優、そして当時のアメリカを代表する大スターにしてアイドル、フランク・シナトラの写真です。セブが崇拝してる部類のジャズミュージシャンではないですが、開襟シャツと、靴もうっすらとですが、2色使いになってる写真をみつけました。とういうことで、前編後編に分けてお送りした『ララランド』特集、いかがでしたか?色々な意見があるラ・ラ・ランドですが、僕は楽しめました。舞台ミュージカルの映画化や、ディズニー映画ではない、オリジナル作品なのに世界中で大ヒットを連発。しかも製作は、ワーナーや20世紀フォックスなどのハリウッド6と呼ばれる大スタジオではないのです。 そして更に、夢を追いかける若者を描いた作品というのが憎いですね。悔しさをバネに、ブログを更新し続けます!

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音楽だけじゃない!色使いも魅力的、映画『ラ・ラランド』

ララランドの色使い

前代未聞のアカデミー賞での珍事や、ジャズミュージシャンやジャズ警察(?)と呼ばれる人達による「これはジャズか否か」論争などもあり、色々な意味で世の中を賑わせてくれているラ・ラ・ランド。2回に渡ってこの映画の衣装を解説します! 


「ラ・ラ・ランド」本予告

ララランド
デミアン・チャゼル監督-2017年公開。
女優を目指すミアと、その友人達の着るドレスのカラフルさが際立ちますね。監督は往年のミュージカル映画へのオマージュをたくさん散りばめていますが、このカラフルな衣装もその1つです。

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ミュージカルのオマージュ

ミュージカル映画の黄金期の50年代、60年代には、まだ白黒で映画を撮るのが主流でした。カラーで撮れたのは資金にゆとりがあるごく限られた作品のだけ。せっかくミュージカルをカラーで撮れるのなら、色をふんだんに使おう!となったのが1964年公開、ジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』だったりします。 

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日本映画の影響

更に、先日『ララランド』の宣伝の為に来日したデミアンチャゼル監督は、鈴木清順の『東京流れ者のポップな色使いに影響を受けた、と言ってます。

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鈴木清順監督、1966年公開。 

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東京流れ者のワンシーン。

ちなみに先日亡くなってしまった鈴木清順監督はタランティーノジム・ジャームッシュウォン・カーウァイパク・チャヌクなどにも影響を与えていますね。いわゆるB級映画とも呼ばれますが、鈴木清順の独特のセンスは、もっとメジャーな、『アニメ版ルパン三世』にも受け継がれてます。鈴木清順はルパン・テレビシリーズの監修も務めていたそうで、制作現場では宮崎駿とのバトルも頻繁にあった見たいです。そのバトル、見て見たい。笑 

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1985年公開、鈴木清順監督。

テクニカラー

さて、話を戻しましょう。『ララランド』はたくさんの映画を参照しただけあって、衣装を含む美術がいいですね。と思ったらアカデミー賞美術賞を受賞してました。(衣装賞はファンタスティック・ビーストでした) さらに、『ララランド』は上記にもあるようなミュージカル映画の雰囲気を再現するために、あえてフィルムで撮影したそうです。実は劇中の歌の中でもテクニカラーというが歌詞に出てきますね。(テクニカラーアメリカのカラーフィルムの企業と技術の名前です)

個人的にはそこまでカメラワークはビックリしなかったのですが、アカデミー賞撮影賞も取ってます。第86回、87回、88回と3年連続でアカデミー賞撮影賞を受賞したイマニュエル・ルベツキと比較すると、今作はそれほどかな?とやや疑問ですが、ここは専門外なので詳しい方いたらご教示いただけると幸いです。  そういえば、87回のアカデミー賞作品賞の『バードマン』に出ていた頃のエマ・ストーンと比べると、ラ・ラ・ランドエマ・ストーンは本当に綺麗になりましたね。まぁ、役柄とメイクのせいもありますが、随分大人っぽくなりました。

f:id:michischili:20170406153703j:plain 『バードマン あるいは無知がもたらす予知せぬ奇跡』アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、2014年公開。アカデミー賞助演女優賞ノミネート。  f:id:michischili:20170406154045j:plain似たアングルのこちら。本作では、アカデミー賞主演女優賞を受賞しましたね。

ということで、色使いに注目した前編でした!まだ観てない方、後編を公開する前にも、まだまだ劇場で観れますよ! 『ララランド』紹介記事の後編ではライアン・ゴズリング演じる、セブ役のファッションについて書きます。乞うご期待! 

michischili.hatenablog.com

『たかが世界の終わり』

本日ご紹介する映画は、洋服度控え目になりますが、間違いなくファッション誌等でも取り上げられるであろう若き天才が撮った、おしゃれな大傑作です。

 
グザビエ・ドラン監督ー2017年、2月公開。
 
 
今世界的にも最も勢いがあり、最新作が出る度に話題になる映画監督挙げるとしたら、このグザビエ・ドランは間違いなくトップ5に入る監督です。

『狂い咲きサンダーロード』とヴェトモン

 今回の映画はこちらです。

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狂い咲きサンダーロード

1980年公開。石井聰亙(いしいそうご)監督。

石井聰亙監督が、(今は改名して、石井岳龍になったみたいですね)学生時代の卒業制作として発表した映画です。

 サンダーロード、という架空の都市が舞台。暴走族達が走り回る中、警察の取り締まりはどんどん厳しくなる。そんな中、暴走族達は互いに争うの辞めて人に愛される暴走族になろう、という休戦協定を結びます。

 

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戦う女性経営者。マリメッコの創業者はぶっ飛んでた!映画『ファブリックの女王』

 

一見、大人しいタイプの人に人気のありそうなブランドのマリメッコ。でも創業者のアルミ・ラティアはかなりぶっ飛んだ革新者でした。この映画ではアルミ・ラティアが一人の女性として、世の中の常識と、男社会と、経営者と、そして家族とも戦いながら会社を作り上げた物語を解説します。

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フィンランド発、「マリメッコ」誕生物語の始まり始まり〜

生地屋、マリメッコ 

舞台は1950年代フィンランド。 
のはずですが、この映画は変わった手法で撮られていまして、劇中劇になっております。というものも、アルミを演じる役者やその他の役者がカメラの前で演技をしているのですが、何の前触れもなく、演技を止め、演出家と台本の確認をしたりします。

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演技を止め、台本を読む演出家とアルミの人物像について話すシーン。

「アルミはこの時何を考えてたのかしら」
「どういった演技をすれば彼女の考えを現代に表現できるかしら」等と、
話をしたかと思いきや、すぐにまた演技が始まります。
この手法をとった理由について監督は、「ムダのないミニマルなこの映画の描き方は、予算の問題だけでなく、アルミの実像に迫るのに上手く作用したと思っている
 と言っています。 さて、そんなマリメッコですが、具体的に何が革新的だったのか。映画内でも描かれていますが、1951年に最初のファッションショーを開きます。生地屋さんがです。大事な事なのでもう一度言いますが、マリメッコは創業当時は「生地屋」さんでした。 

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オートクチュールの時代 

当時、すでにパリではファッションショーはありましたが、老舗メーカーのオートクチュール(オーダーメイド)のショーが主流でした。本当に裕福な上流の人達に向けた物ですね。2016年の4月にはこんな展覧会もありましたね。

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パリ・オートクチュール

世界に一つだけの服

 〜芸術は、着れる〜
 
しかし、マリメッコは生地から始まりました。生地の評価は高いが、買う人がいない。
では、生地の素晴らしさを伝える為に洋服にして見せてみよう。という発想で全財産をつぎ込み、ファッションショーを開きました。このショーは大成功に終わりました。
舞台裏にお客さんが大勢押し寄せ、「どこで買えるの?」「今ここで買えないの?」等と高揚した人ばかり。しかしこの時点ではまだ小売店をどこに出すか決めていなかったそうです。計画的、ではないですが、やったもん勝ち、とも捉えられるかもしれないです。 
さて、このショーが重要なのですが、
当時パリで流行っていたオートクチュールはオーダーメイド。アルミの行ったショーは、メーカーが服を予めデザインをし、それを発表する。そして発表された物を量産し、店頭に並んだ物をお客さんが買う、という流れ。所謂プレタポルテの先駆けですね。というかマーケティングの天才ですね。これをざっと年表にしてみましょう。

マリメッコの革新性 

1951年 マリメッコ、初のファッション・ショー

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1960年 ジャクリーン・ケネディマリメッコの服7着購入。
雑誌の表紙で着用し、大きな話題となる

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1965年パリでは、クレージュがミニスカートを発表。オートクチュールではタブーとされていた膝出しをし、一大ブームに。

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1966年イヴ・サンローランがパリ左岸にプレタポルテの店をオープン。
プレタポルテが本格的に始動。(詳しくはこちらのブログもどうぞ)
同時期にイギリスで登場したモッズの登場も地域間を超えて呼応するカルチャーとして参考になります。
となっております。
こうして名だたるハイブランドと比較してみても、アルミ(マリメッコ)の時代を読む力、消費者の理解、自社の顧客を作り出す、と言ったマーケティングセンスの良さがわかりますね。そしてあまりにも先駆的であった為に、彼女は多くの人と衝突をしてしまいます。この映画は、産みの苦しみと、美の探求をした一人の女性の生き様がしっかりと、現代風にアップデートされて描かれています。本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!
 
2016年、10月からはitunes先行配信され、
12月16日よりDVDが発売されます。クリスマスギフトか、年末見る映画にもいかがですか? 

「ファブリックの女王」予告編 

ヨールン・ドンネル監督、2016年公開。

 

一流の映画は、衣装も一流だった。『8 1/2』で学ぶスーツスタイル

 一流の映画は、衣装も(スーツの着こなしも)一流だった。体型にあったサイズ、細すぎずダボダボしすぎないシルエットに、黒縁メガネや、サングラスなどの最低限の小物。今ではお洒落なスーツスタイルに欠かせない上記の着こなしポイントも、ルーツを辿っていくと実はこの映画が起源ではないかと思えるのです。

8 1/2の衣装

8 1/2フェデリコ・フェリーニ監督、1963年公開。
黒スーツと題して2つの映画を紹介してきましたが、いよいよ真打ち登場。 
8   1/2 [Blu-ray]

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フェリーニは言わずと知れた、イタリア映画界を代表する映画監督です。

巨匠と言われ、フェリーニの映画は後世に大きな影響を与えましたね。
その中でもこの8 1/2は映画史に残る傑作、とも言われてます。

グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)のスーツ

主人公、グイドは売れっ子映画監督。SF大作の製作を控えてますが、一向にアイディアが固まらない。心身ともに疲れきったグイドは温泉地で休養をしながら映画の構想を練ろうとします。しかし、彼を追いかけるプロデューサー、俳優、愛人、奥さん、神父などと、多くの人が温泉地まで詰めかけ大騒ぎに。周りの意見に振り回され、グイドは現実逃避(妄想)を始めます。この映画は、現実の世界と、妄想の世界がカオスに入り混じる具合がとても面白く描かれてます。更に、これは映画監督であるフェリーニ自身の話でもあるんです。 次回作の案が浮かばず、取り巻きがうるさい。俺はどうすれば良いんだ?何がしたいんだ?まてよ、いっそのこと、この苦悩その物を映画にしてしまえば良いじゃないか!そうして、映画史に残る古典として8 1/2はできたのです。さて、それではグイドの格好を見てみましょう。 

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モテそうなオジさんですねえ。この人が被ればサングラスもサマになります。

マルチェロ・マストロヤンニコリン・ファース

この顔、ちょっと似てません?スーツ特集の第一弾で紹介した映画、シングルマンの主役の教授に。

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 スーツ特集での共通点を挙げると、
•サイズ感
•シルエット
•少しの小物
の3つのポイントにまとまる、と思います。
自分の体型にあったサイズ、細すぎず、かつ、ダボダボしすぎないシルエット、そして、黒縁メガネや、サングラスなどの最低限の小物。

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洋服において、色や素材ももちろん重要ですが、この3つに気をつけるだけで、とても綺麗な着こなしが完成する、とても良い例だと思います。 

フェリーニの影響

恐らくシングルマンを撮ったトム・フォードは、この8 1/2のスタイリングに影響を受けてると思います。いや、むしろこの映画、当時のアカデミー賞衣装賞も受賞してますが、映画史に残る傑作と言われるだけあって、様々なジャンルのクリエイターに多かれ少なかれ何かしら影響を与えてます。
もっと言うと、現代の僕達が思いつく事は大体既に先人がやり尽くしたアイディアである事が多い、と謙虚な気持ちになりますね。 さて、スーツ特集いかがでしたか?これを機会に是非、フェリーニやその他の映画もご覧になってみて下さい!

michischili.hatenablog.com 

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ダサ・カッコイイ?黒スーツがイケてる『レザボア・ドッグズ』

映画オタクのタランティーノによる強盗映画。制服のように登場人物達が黒スーツをきているのがまたカッコいいんです。しかもそれぞれ微妙に違う着こなしなのがまた良い。低予算ながらも、工夫を凝らして成功した事例ですね。
レザボア・ドッグス [Blu-ray]

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ダサ・カッコいい?映画オタクの監督、タランティーノ

今や大ヒット映画監督の1人となったタランティーノのデビュー作タランティーノは香港のカンフー映画、日本のヤクザ映画、ゴダール等が好きなアメリカの映画オタクです。レンタルビデオ屋で働きながら、ほぼ自主制作に近い形で撮ったこの映画で強烈なデビューを果たします。「アメリカ映画は金の臭いがして、単純な作りでダメだ」という人もいますが、タランティーノは今のアメリカ映画界の中でも、いい意味で好き勝手やりながら大作を任されてる稀有な存在です。 この映画、オープニングがカッコイイのでそちらをご覧ください。 

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低予算感は出てますがこの頃からタランティーノらしさが全開ですねえ。カッコ良いというよりは、ダサカッコイイというのが近いもしれないですね。 レザボア・ドッグスの男達宝石強盗をするために集められた男達。互いの素性はわからず、コードネームで呼び合う。しかし、宝石強盗は失敗に終わる。負傷したメンバーもいるなか、裏切り者が出たという情報が入り、男達は互いに銃を向けあう。 

ハーヴェイ・カイテルと黒スーツ

ハーヴェイ・カイテル演じるミスターホワイトはアニエスベーのスーツを着ていたようですが、それ以外の役者はほぼ安いスーツか、人によってはスーツでは無く、黒のデニムを履いているようです。それ以外にもキャラクターによって微妙な差が。

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ステーヴ・ブシェミ演じる、ミスターピンクボタンダウンシャツを着てます。

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 ティム・ロス演じるミスターオレンジはボストン型のサングラスをかけてます。

細身の黒スーツ

ディテールの差はあれど、細身の黒スーツをユニフォームとして着るとかっこいいですね。この細身のネクタイの具合や、サングラスやデニム、人によってはブーツを合わせてしまう具合が、絶妙です。黒のスーツに黒のネクタイといえば、一歩間違えると喪服に見えてしまいますが、素性のわからないホワイトさんや、ピンクさん達は強盗をするのに、「あえて黒スーツを着てる」感がおしゃれに見えるんでしょうね。うまい演出を考えましたね、タランティーノ

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と、思ったら監督本人も、ちょい役でちゃっかりミスター・ブラウンとして出演してます。この笑みがなんとも言えないですね。完全に楽しんでます。さて、物語は明るいオープニングで始まりますが、その後緊迫したムードが漂い始め、銀行強盗が失敗に終わったことがわかります。タランティーノ特有の、キャラクターにべらべら長台詞を言わせる、また、時間が飛んだり戻ったり、という演出が低予算がながらも物語に良いリズムを生んでくれてます。果たして、裏切り者は誰なのか。タランティーノ演じるミスター・ブラウンはどんな活躍をするのか。長編デビュー作とは思えない素晴らしいこの映画は、この服装無くしては成立しなかったと思います。スーツの着こなしにそんなに差ってあるの?と思ったそこのあなた。他にもシンプルなスーツがイケてる映画を紹介していますので、ぜひご覧ください!巨匠、フェリーニによる『8 1/2』があり、michischili.hatenablog.com

フェリーニから時代を経て引き継がれたスーツ・スタイルに、『シングル・マン』もあります。しかもこの映画は現役のファッション・デザイナーが監督をしてるので、そこも見所です。michischili.hatenablog.com本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!

ヒップ・ホップ誕生を描く、Netflixドラマ『ゲットダウン』

プーマのスウェード・クラシックが印象的に使われている『ゲットダウン』。実はこには理由があるんです。今回は、Netflixが製作したヒップホップ誕生の物語を描くドラマ、『ゲットダウン』を紹介します!

ブロンクス生まれ、プーマ育ち 

舞台は1977年ニューヨーク、ブロンクス。当時は街中には貧困が蔓延り、若者は犯罪に走り、売人は薬で儲かる。今のニューヨークからは想像できないような巨大なスラムだったそうです。主人公はアフリカ系とヒスパニック系(プエルトリコみたいです)のハーフの少年、エゼキエル。f:id:michischili:20160921022130j:plain

ブロッコリーのようなアフロがいい味出してますね。当時、ニューヨークは貧困層と富裕層の住むエリアがはっきりと分かれていました。そして貧困層が住む地域、ブロンクスからヒップホップは誕生するのです。 さて、今回の服装ですがこちらをご覧下さい。

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彼はエゼキエルにヒップホップを教えてくれるシャオリンというニックネームの青年です。
赤のプーマを履いてますね。プーマのクラシックスエードというモデルです。

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70年代当時は、ディスコブーム全盛期。エゼキエルも、ディスコクラブに入ろうとするために、友達のお父さんの服を借りるシーンが描かれます。お金のある大人達がクラブのなかで踊っていた裏で、クラブに入れず、お金もない若者達は路上で新しい音楽や踊りを生み出していました。そしてもちろん、この動きはファッションとも切り離せません。 

初期ヒップホップとスニーカー

このドラマで描かれているヒップホップ黎明期の数年後、前の記事でも紹介したRUN-DMCというグループがデビューし、ヒップホップが全米に知れ渡る大きなきっかけを作ります。 

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1986年の画像ですね。

michischili.hatenablog.com さて、ドラマは77年から数年間(第2シーズンでどれくらい進むかにもよりますが)を描いてますが、少し先に進んでみましょう。RUN-DMCによって一気にメジャーな音楽の仲間入りを果たしたヒップホップですが、当時はまだまだアフリカ系、またはヒスパニック系の文化というイメージが強かったです。 そんなイメージをこのグループが壊します。

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Beastie Boys 1992年に発売された彼らのアルバム、Check Your Headのために撮られた写真。
プーマとアディダスですね。このように、ヒップホップ初期(ビースティー・ボーイズもここでは一応初期とします)の服装としては、ローテクなスニーカーを履く人がほとんどでした。しかし、のちに90年代から〜2000年程までは、ヒップホップの中心地が東海岸(ニューヨーク)から西海岸(カリフォルニア)に移り、ギャングスタ・ラップというタイプのヒップホップが流行り、服装の流行りにも変化が訪れます。The Getdownで描かれる最初期ヒップホップからBeastie Boysの流れ→ローテクなスニーカー中心NWAデビュー以降、映画ストレイト・アウタ・コンプトンで描かれるギャングスタ・ヒップホップ以降→Timberlandなどのブーツや、Nikeエアフォースワンなど、ボリュームのある靴が流行ります。

『ゲットダウン』の魅力とは?

さて、ドラマに話を戻しましょう。
主人公エゼキエルは、幼い時に親を亡くし、親戚に育ててもらっています。読書家で、教養もあり、学校の先生からも、作文の才能を認められたエゼキエル。しかし、自分の生い立ちのせいか自分に自信がなく、才能を活かしきれない。有能な学生のためのインターンの話が来ても、「どうせ金持ちの白人様の言いなりになるだけだ」、と友達に言われ決断できずにいる。そんな時に出会うのが、赤いプーマを履いたシャオリンなのです。そして、エゼキエルと仲間達はこの全く新しい、産声をあげたばかりの文化(遊び:はい、文化とは一言でいうと遊びです)にのめり込み、ラップの才能が開花する。(リズムに合わせて韻をふむのですが、思った以上に難しいんです!その難しさも描かれてます) 

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また、エゼキエルの幼馴染みであり、片思い(?)の相手がクラスメートのマイリーン。

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彼女はキリスト教の牧師を父に持ち、教会で聖歌を歌っていますが、ディスコ・スターになり、この貧困の街から出たいという夢を持っています。しかし、厳格なペンテコステ派の牧師の父からは、ディスコは悪魔の音楽だ、と断固反対されます。ディスコ音楽と教会音楽という部分もきちんと描いているのはとても勉強になります。アメリカのミュージシャンで聖歌隊出身の人は非常に多い点から、その背景を観れるのは日本に住む僕たちにとってはとても新鮮だと思います。誰もが、エゼキエルの教養の深さを評価しているにも関わらず、彼は才能を活かしきれない。誰もが、マイリーンの歌声を評価しているにも関わらず、父がその才能を使わせてくれない。 この才能のある若者二人は時代の波にのまれてしまうのでしょうか? 

このドラマ、ヒップホップ誕生物語でもありますが、若者の青春ドラマでもあり、弱者が夢を掴みとろうとするアメリカンドリームも描いてます。服の話からずれてしまいますが、ヒップホップ誕生と切ってもきれないグラフィティ(落書き)の文化もリアルに描いています。この夏公開されてからは、アメリカで大ヒットしたみたいですが、日本でも同じ公開時期に観れるのはいいですね。僕も寝る間を惜しんで一気見してしまいました。今回はスニーカーを中心に解説しまたしが、いかがでしたでしょうか?ちなみに未だにヒップホップとスニーカー(ファッション)の関係は切っても切り離せず、最近ではKanye WestAdidasと共同でプロデュースしているyeezyというスニーカーが人気だったりします。f:id:michischili:20160923002732p:plain

無法地帯の若者達を潰しにかかる嫌な大人達と、

現状を憂いながらも、もっと良くしていきたい!と反発する若者達の熱血ドラマ。

ヒップホップ誕生の裏側は、小説よりも奇な血沸き肉踊る若者達の叫びの物語でした。どっちが勝ったって?それはもう皆さんご存知ですよね 本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!

 

スーツも建築もお洒落!トム・フォードの『シングル・マン』

お洒落映画といえば、これ。ファッション雑誌ポ◯イの表紙にの載ったこの映画、実は建築もかっこいいんです。

シングルマン (字幕版)

シングルマン (字幕版)

 

トム・フォードって誰?

ファッション好きな人ならば、聞いたことがあるでしょう、トム・フォードの名を。
(ブラウンではないです。)
POPEYE(ポパイ) 2015年 12月号 [雑誌]

POPEYE(ポパイ) 2015年 12月号 [雑誌]

 

 この映画を監督したのは、実はファッション・デザイナーとして有名なトム・フォード。アメリカ人ですが、グッチやイブ・サン・ローランのデザイナーも務めた後、自身のブランドを手がけてます。近年、様々な業界で「クリエィティブ・ディレクター」という肩書きを名乗る人が増えてきていますが、彼はその先駆けの一人です。ざっくりいうと、商品(服)だけでなく、その他の店舗の内装、ホームページ、広告ビジュアル、人によっては顧客が買った物を入れるショッパーまで、ありとあらゆる面でのブランドのイメージのコントロールを担う役職です。彼はファッション業界で一早く、この肩書きで伝統あるGucciというブランドの再生に成功しました。(Gucciはここ数年はまた新しいクリエィティブ・ディレクターの起用で爆発的に売り上げを伸ばしていますね)

トム・フォードとスーツ

さて、そんなトム・フォードですがメンズ服に関してはイギリス贔屓なようで、スーツにも定評があります。 ここで一句。「男なら、一度は着たい、トム・フォード」とか言ったり言わなかったり。

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ここ最近のダイニエル・クレイグが主演している007ではトム・フォードのスーツが使われています。所謂王道、ですね。さて、では実際の映画の服装をチェックしましょう。60年代を舞台にした映画で主人公は大学教授として登場します。 

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黒縁眼鏡に、細身のタイ、そして深いVゾーンのダークブラウンのスーツ。カッコイイですねぇ。これはある程度年齢を重ねないと出せないカッコよさだと思います。
 

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ちょっと画質が悪いですが、この二人のシャツの襟とネクタイの太さを見比べていただくと、いかにコリン・ファースが演じる主役のスーツがすっきりしているかがわかりますね。

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襟の収まりと、ネクタイの小さなノット(結び目)が洗練された雰囲気を出し、やや大きいフレームの黒縁眼鏡がより理知的に見せています。いかにも大学教授らしい。

建築もかっこいい。西海岸らしいガラス・ハウスとは?

 トム・フォードは元々美術史やインテリアデザインを学び、俳優も目指していただけあって、細部に到るまでの徹底した美意識は流石です。この映画でスーツと同じくらい重要なお洒落要素である、とある名建築の紹介もしましょう。主人公が住む家はジョン・ロートナーという建築家が設計した「ガラス・ハウス」という建物です。アメリカ西海岸らしい、暖かい気候と明るい日差しを取り込めるような大きな出窓と、ガラスの戸が気持ち良さそうですね。湿気の多い日本では同じ様な設計は難しそうです。

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空間を区切るような大きな壁は少なく、代わりに空間を上から包むような広い屋根も特徴的ですね。実はこの家を設計したロートナーは、近代建築の3大巨匠?の一人と言われる、フランク・ロイド・ライトに師事していたんです。屋根の広さや少しエスニックなテイストにその系譜が現れていますね。 

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 光の差し込み具合だまたいい。建築もそうですが、インテリアや小物も60年代らしさを忠実に再現していますね。まさに神は細部に宿る。服も建築もこだわっているこの映画、デザインに興味のある方は是非観てください!ちなみに、以前紹介した映画、『マイ・インターン』もこの映画同様、クラシックなファッションの良い参考例です。『シングル・マン』はスーツと建築がメインでしたが、『マイ・インターン』は小物を中心に参考になる物がたくさんです!

そして『シングル・マン』と同じく60年代を舞台にした映画に、『さらば青春の光』もありますね。同時代でも、大西洋の向こうではこんなカルチャーが生まれていたんですね。モッズのスーツと『シングル・マン』を比較しても面白いです。

michischili.hatenablog.com

興味ある方は是非、他の記事も読んでみてください!本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた! 
 

ズートスーツって何!?映画『マルコムX』で学ぶチンピラスーツ

【ズート・スーツ】1940年代にアフリカン・アメリカン系ミュージシャンや、マフィアなどの服装としてよく見られたズート・スーツ。キング牧師と並ぶ有名な解放指導者マルコムXは、実は若い頃はズート・スーツを着るようなチンピラでした。今回は映画『マルコムX』を元にズート・スーツの解説をします。

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ズート・スーツ

さて、マルコムXはきちんとしたスーツに身を包み、メガネをかけているインテリのようなイメージが強いですね。しかし、若い頃はやんちゃでした。やんちゃを通り越えてチンピラでした。その頃の服装がこれ。

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またはこれ。

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ちょっと暗くて2枚目はわかりにくいですが、解説をしましょう。

1940年代にアフリカ系アメリカ人のミュージシャンや、マフィアなどの服装としてよく見られたズートスーツ。

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特徴としては、

・極端につばの長いハット

・極端に太いラペル(襟)

・極端に長いジャケット

・極端に太く、ハイウェストなパンツ

・極端な色、または柄使い

となります。

とにかく全てが極端ですね。

ヨウジ・ヤマモトとズート・スーツ

これ、今そのまま着たら目立ちますが、日本のブランドでこの精神を受け継いでるブランドがありました。

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色や柄は落ち着いてますが、極端なシルエットはまさにズート・スーツですね。以上ヨウジ・ヤマモトの服でした。

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映画、マスクのジムキャリーの服装もズート・スーツ。そしてこちらは2016年10月発売のGRINDという雑誌の表紙。

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 気だるそうな表情に、大きいサイズのジャケット、シャツはインしてハイウェストパンツ、そしてつばは広めです。この手のつばの広いハットは一時期とてつもなく人気がありましたね。僕の職場ではよく見かけましたが、そろそろこの流行りも落ち着くのではないかと思います。

映画に戻りましょう。ズート・スーツが登場する、との情報をキャッチし、いつか観ようと思っていた名作を観れました。名作ですが、良くも悪くも内容がヘビーです。スパイク・リーの描きかた、カメラワークももちろんですが、デンゼル・ワシントンの演技がまたいい。カリスマが宿ってます。服装から入るもよし、作品から入るもよしですが、これは観ておいてよかったです。一般的には、マルコムXキング牧師と比べて過激な発言をしていた、との見方をされますが、実際はどうだったのでしょう?映画は脚色がされていますが、マルコムの人柄と苦悩がとてもよく描かれています。ちなみに、服装とその背景のカルチャーに興味を持ったそこのあなた。このブログでは他にも1910年代の英国マフィアの服装を解説している記事があります。今回のズートスーツと是非見比べてみてください。michischili.hatenablog.com

他にも、スーツと言えども、モッズ・スタイルのスーツはまた全然違う成り立ちと美意識があります。モッズと言えば、日本で大人気、カラフルかつ品のあるポール・スミスのルーツのスタイルとも言えますね。モッズ・スタイルは当時の最先端の不良ファッションだったことがわかる映画『さらば青春の光』などもあります。

michischili.hatenablog.com

スーツといえども、地域、時代、音楽、などとの繋がりなどでこんなにも豊かな歴史があるんだ、と発見があると思います!本日も最後までご覧いただきありがとうございました。コメントの書き込み、その他SNSでのシェアなどして頂けるととても嬉しいです!それではまた!